
ヒット習慣予報 vol.363『先延ばしプレジャー』

こんにちは。ヒット習慣メーカーズ メンバーの宮崎です。
突然ですがみなさん、「すぐやらなきゃ」「何事も早い方がいい」と、焦ったことはありませんか?
私はよくあります。特にせっかちな性格なので、何事もすぐに手をつけたくなるタイプです。
でも最近、そんな「すぐやらなきゃ」という思い込みから、少しだけ距離を置けるようになってきました。むしろ、“先延ばし”にすることで、今の自分が本当は何をしたいか?に耳を傾ける時間ができ、幸福度が上がるような気がしています。
実際に「先延ばし」とGoogleトレンドで検索したところ、検索量は右肩上がりで増えていました。
▼「先延ばし」検索量推移(2011年以降・日本)
出典:Googleトレンド(「先延ばし」Web検索数推移)
そこで今回は、そんな“先延ばし”を前向きにとらえた「先延ばしプレジャー」をご紹介したいと思います。
1つ目の事例は、【「冷凍して、あとで感動」味覚の先延ばし】です。
冷凍技術が進化した昨今、食べ物をできたてのうちに“すぐに食べない”という選択肢が、新たな幸福感を生み出しているように感じています。すぐには味わわず、あえて“冷凍して、解凍する”というプロセスを楽しむ。これが、現代の味覚の先延ばしという新しいスタイルです。 例えば、冷凍チーズケーキや冷凍生クリームパン、冷凍フルーツなどは、冷凍した状態で届き、その後少し時間をかけて解凍することで、より一層の美味しさを感じることができます。解凍の過程で、味や食感が変わるのを感じると、それだけで一つの楽しみが生まれます。このプロセスを経ることで、単なる「食事」から「食の体験」へと変化する気がします。
2つ目は、【旅行の余韻を「数週間あと」に味わうSNS活用】です。
旅行に行ったら、その場でたくさん写真を撮りますよね。以前の私なら、すぐにSNSにアップしていたと思います。でも最近では、旅から帰ってきた“あと”に写真を整理し、数週間後に思い出を投稿する人が増えているようです。私がSNSでフォローしている友人たちもそのような傾向があります。
「旅の最中はあえてスマホを触らず、あとでゆっくり振り返るために撮っておく」
「帰ってきたあとも旅の続きが楽しめる」その日の感情を寝かせて、後日じっくりシェアするこの行動もまた、先延ばしの中にある豊かさのひとつなのかもしれません。
3つ目は【「やりたくなったときにやる」“先に決めない”予定の幸福】です。
以前の私は、友達との予定や休日の過ごし方は「早めに決めておいた方が安心」と思っていました。でも最近、友人から「ランチの場所だけ決めて、あとはその場で決めよう」と言われ、少し不安ながらもその提案に乗ってみました。すると、思いがけずすごく楽しい時間になりました。「今日は何をして過ごしたいかな」と当日の気分に任せることで、意外な楽しみと出会えたり、「自分って今こういう気分だったんだ」と気づけました。また、予定を先に決めすぎないことで、自分の感情に素直になり、行動の自由度がぐんと広がった気がします。“空白の予定”は、何もしない時間ではなく、「未来の幸福のために空けておくスペース」なのかもしれません。
さて、いくつか事例を紹介してきましたが、なぜ「先延ばしプレジャー」が注目されているのでしょうか。
1つ目は、自己の感情を尊重する時代が訪れていることです。現代では、「タイパ」や「時短」などの言葉からもわかるように、過剰に速さを求める風潮が強くなり、物事をすばやく進めることが美徳とされがちです。しかし、その中で「今は、まだ」と感じることを許容することが、自己の感情やペースを尊重することに繋がります。スピードよりも、自分の感情や気持ちに正直でいたいと考える人々が増えてきており、心のゆとりを持つために「先延ばし」の幸福が求められていると思われます。
2つ目は、焦らずに楽しむことが、幸せそのものを深めるという価値観が広がっていることです。「すぐやること」が正しいという価値観に疑問を抱く人々は、あえて物事を先延ばしにすることで、より深くそのプロセスを味わおうとします。例えば、「あとで味わう」ことで待つ楽しさを体験することが、幸福感を増幅させるという感覚です。先延ばしをすることによって、今はその瞬間を楽しむのではなく、後で味わう幸せを深く味わうことができるため、感情が豊かになり、心の充実感が得られるのです。
最後に、「先延ばしプレジャー」のビジネスチャンスとして、下記のようなことを考えてみました。
「先延ばしプレジャー」のビジネスチャンスの例
■予想する時間もコンテンツにできる“途中で終わる小説”
■数ヶ月前の自分が記録したボイス・写真・メモが、スマホに届くアプリ
■旅行の日程を予約のあとでも調整できるシステム
今週の土日の予定はまだ入れていません。
何をするかは、まだ決めないでおくことにします。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂プロダクツ デジタルプロモーション事業本部 アクティベーションプランニング部
ヒット習慣メーカーズ メンバーSNSマーケティング会社を経て、2023年に博報堂プロダクツへ中途入社。ミーハー気質で何にでも手を出し、たまにどハマりするものを見つける。犬2匹と楽しく生活中。