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拡大するNFTビジネスの最先端を各領域の知見から押さえる Hakuhodo DY Play AssetプロジェクトのNFTビジネスへの取り組み
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拡大するNFTビジネスの最先端を各領域の知見から押さえる Hakuhodo DY Play AssetプロジェクトのNFTビジネスへの取り組み

今、NFTビジネスがまさに拡大しようとしています。ですが黎明期だけに、テクノロジー、ファイナンス、あるいは法的な部分でも疑問点が多いのが現状です。博報堂DYメディアパートナーズでは、そうした各領域のプロフェッショナルと協働し、生活者に新たな価値を提案するNFTビジネスを模索。2月にはサービス第一弾として、スポーツを軸としたNFTコンテンツ発行プラットフォーム「PLAY THE PLAY」をオープンしました。

本稿では、2022年3月18日にTRUNK HOTEL SHIBUYAにて開催された「NFT Summit Tokyo 2022」内のセッション「博報堂DYメディアパートナーズグループNFTビジネスへのチャレンジをスタート」の模様をお届けします。

強力な外部パートナーとともにNFTビジネスを推進

近年、NFTに大きな注目が集まっています。アートや金融など複数の文脈で語られるNFTですが、博報堂DYグループでは様々な部門でNFT領域における「生活者との関係構築」を模索しています。具体的に推進を進める博報堂DYメディアパートナーズでは、3月7日、ブロックチェーン技術を活用したコンテンツを軸にビジネスを推進するプロジェクト「Hakuhodo DY Play Asset」を発足。先んじて2月には、スポーツを切り口にファンとのエンゲージメントを醸成するプラットフォーム「PLAY THE PLAY」の運用を開始し、第一弾としてサッカーJリーグの動画トレーディングカード(以下、トレカ)を販売しています。
今回の「
NFT Summit Tokyo 2022
」内のセッションでは、こうしたプロジェクトで協業いただいている各領域のプロフェッショナルをゲストに迎えました。

安本
モデレーターを務めます、博報堂DYメディアパートナーズの安本です。現在、イノベーションセンター長として、新規事業開発組織である博報堂のミライの事業センターも兼務しています。その活動として、スポーツやエンターテインメント領域のNFTビジネスをまさに模索しながら進めているところです。
はじめに、NFT領域で先駆的な取り組みをされている、今回ご登壇いただく当社の外部パートナーのお三方をご紹介します。まずuMi取締役会長の椎名さんは、Digital Entertainment Assetにてplay to earn(※ゲームをプレイしながらお金を稼ぐことができる仕組み)を組み込んだビジネスを業界に先駆けて手掛けられました。
椎名
私はもともとPwCやKPMGコンサルティングの代表を務めており、その後にブロックチェーン技術を基盤に新たな掲載と文化の創出に取り組むDigital Entertainment Assetに参画しました。今年1月から、テクノロジーと金融の専門家チームによって次世代ビジネスを包括的に支援するuMiに参画しました。博報堂DYグループとは昨年から、NFTの新規ビジネスの検討をご一緒しています。
安本
続いて、ベンチャーキャピタルWiLの創業メンバーでありパートナーの久保田さんです。WiLは複数の大企業を投資家に持ち、メルカリやHeyなど有数のスタートアップに投資し、日本の大企業とスタートアップをつなぐことで日本全体のトランスフォーメーションを目指してビジネスを展開されています。当社も、2014年の1号ファンドからLPとして参画しています。
久保田
かれこれ8年ほどのお付き合いになりますね。当社は東京とシリコンバレーを拠点にベンチャー投資を行っており、私は東京ベースで業務にあたっています。デジタルトークン投資においては、つい最近立ち上がった、Web3などをテーマとする起業家を支援するNext Web Capitalに出資しました。同社は日本発のパブリック・ブロックチェーン「Astar Network」のファウンダーであるStake Technologiesの渡辺創太さんなど、日本の起業家7名が創業しています。
安本
そして、NFTビジネス推進に欠かせない法の領域から、森・濱田松本法律事務所のパートナー弁護士、増田先生です。先生は同事務所ITプラクティスグループの責任者であり、直近で『NFTの教科書』の編著者を務められるなど、弁護士としてNFT領域のトップランナーと言える方です。もともと、理系のご出身なのですよね?
増田
はい、弁護士になる前はエンジニアリングの領域におりまして、そのバックグラウンドを持ちつつ現在ITデジタル全般に対応しています。経産省のメディアコンテンツ課への出向を経験したりですとか、近時は金融庁の市場課にてブロックチェーン関連の法改正に携わったりしてきましたが、昨年あたりから、こうしたデジタルコンテンツ分野とブロックチェーン分野の両面が結びつく形で、NFTという新たな領域が出現しました。そこで両方の分野に詳しい私にお鉢が回る状況となりまして、NFTに関する情報発信も盛んに行っています。ご紹介いただいた書籍もその一環です。
私自身、今回のプロジェクトには、NFTの取引プラットフォームを構築する際の注意点についてアドバイスするなどの形で、アドバイザーのような役割で関わっています。

PLAY THE PLAYのコンセプトは「熱狂のテイクアウト」

続いて安本から、そもそもなぜこのような全方位的な外部パートナーと協業しているのか、その背景が語られました。前述の「Hakuhodo DY Play Asset」立ち上げや、具体的に一般生活者がNFTを購入できる場としての「PLAY THE PLAY」の構築などを経て、NFTビジネスを開発・運営するにあたっては1社の知見では不十分だと実感したといいます。
そして現在、博報堂DYメディアパートナーズにおける、一定のオープンイノベーションの座組を確立した段階です。

安本
取り組みを具体化するほど、我々のグループの力だけではなかなか立ち行かないと感じています。NFTビジネスは単に新しい領域であること以上に、テクノロジーやファイナンス、あるいは法的な部分など、専門の知見を携えてビジネス開発にあたることが不可欠です。特に、NFTを購入するユーザーや生活者の安全性の担保は、非常に重要なテーマです。
その上で、例えばすでにローンチしたサッカー選手のプレー動画といったデジタルコンテンツを、コピー可能な情報ではなく希少性のある固有の価値として流通させるには、従来のコンテンツのビジネスモデルから脱却する必要があります。そこにさらにさまざまな権利が付帯するなら一層、NFTビジネスならではの新しい考え方が求められます。
そこで当社では、スポーツ、エンタメ、アートなど各種コンテンツやIPホルダーとの連携はもちろん、複数の外部パートナーを迎え、まだ成功の定石がないNFT領域で複数のビジネスを構想し、ローンチを目指しています。

安本
サービスの第一弾「PLAY THE PLAY」の開発も、お三方にアドバイスをいただきながら、特にWiLさんの協力の下でデザインシンキングのプロセスを経て構築しています。Jリーグのファンの方100人以上にインタビューし、どのようなサービスが求められているのか、NFTビジネスの可能性を探りました。
安本
インタビューによると、コアなファンは当然スタジアムに足を運んでプレーを楽しむわけですが「一過性の消費に終わってしまう」ことに不満足感がありました。そのときに熱狂した自分の体験を持ち帰りたい、家族に共有したりファン同士で語り合ったりしたいというインサイトがあったんです。そこで、どうしたらその熱狂を持ち帰れるかという点に注目し「熱狂のテイクアウト」とのコンセプトでサービス構築を進めていきました。
目下Jリーグ各チームの方々、そしてスポンサーの方々と連携して動画トレカの制作を進めており、J1の全試合を対象にNFT化が可能な動画トレカビジネスの展開を見込んでいます。現状では動画トレカが準備できた試合から、1試合3つの動画をパッケージにして、キャンペーンとして無料配布しています。NFT化はこれからですが、まずは自分のスマホに動画をコレクションできるサービスとしてユーザーの方々に親しんでいただきながら、UI/UXを改善していくつもりです。

椎名
NFTを発行していくにあたって、もちろん技術も重要なのですが、やはりコアユーザーとなる方が何を求めているのかという発想で企画化・具現化するのが大事だと思います。おそらく権利関係もとても厳格だったと思うのですが、こうしてJリーグというコンテンツを企画化してファンに喜ばれる形で実現できるのは、博報堂DYグループならではだと思いました。
スポーツの世界には、ベースボールカードのように高値で取引されているリアルな前例がありますよね。スポーツというIP自体、とても強力だと思います。

安本
“熱狂”と掲げる以上、その興奮が冷めないうちに利用できないと意味がないので、試合後24時間以内に動画トレカを発行できる制作体制も整えています。
併せて現在、エンタメを切り口にしたマーケットプレイスも準備中です。グループ会社の博報堂DYミュージック&ピクチャーズがアニメを多く手掛けているので、同社を中心にし、グローバルに向けても発信できるビジネス展開を予定しています。
Jリーグファンや、特定のアニメファンなどの間でNFTの取引が可能になると、これまでにない形でのコミュニケーションが生まれ、濃いコミュニティ形成にもつながります。そうしたプロセスが健全に運ぶよう、増田先生をはじめ法律家の協力を得ながら、安全性に十分注意して進めていく考えです。

NFTによって生まれる、コンテンツとファンとの新たな関係性

セッション後半では、お三方のこれまでのご経験から、これからNFTビジネスに参入していく上で認識すべきことや注意点などをうかがいました。博報堂DYグループの視点として、安本は「NFTをコンテンツとファンの間に置くことで、どのような新たな関係性を創出・構築できるか」を模索したいと語ります。ブロックチェーンという特徴から、コンテンツに対する貢献を可視化できるため、それに応じてリターンが得られるなど、単なるコンテンツ消費とは異なる価値を生み出す可能性があるといえます。

安本
NFTを使うと、コンテンツを「希少性のある1of1の価値」として流通させることができます。さらに、さまざまな付帯権利を埋め込むことで、ビジネスが広がる余地があると考えています。Web3の世界、あるいはメタバースが確立された世界では、生活者がリアルとデジタルを行き来して、双方で社会活動を営む時代になっていく可能性がありそうです。
Digital Entertainment AssetにてNFTのゲーム系ビジネス play to earn を立ち上げられた観点から、椎名さんは現状の流れをどうご覧になっていますか?
椎名
我々が現在のNFTにつながるビジネスを構想したのは2017年ごろでしたが、今改めて多くの企業が注目する状況を見ると、やはりこうした使い方はとてもおもしろいし可能性が大きいと実感しています。実際、まだまだ切り口やアイデアはたくさんあるはずですから、考えついた者勝ち、実行した者勝ちだと思います。インターネットの黎明期のようなものですね。私も次なるビジネスを展開していきたいところです。
安本
今日こちらにお集まりの方々も、NFTビジネスを構想されている方々だと思うので、皆で盛り上げていきたいですね。
椎名さんは、なぜゲームに注目されたのですか? play to earnの考え方も、斬新だったと思います。
椎名
カード型のゲームを最初に手掛けたのですが、ヒントになったのは、実際にリアルなカードゲームのカードが高値で売買されていたことです。ゲームより前に、アートの切り口も考えたのですが、そもそもリアルの市場に贋作が一定割合で含まれてしまうので、相当な専門知識がないと難しそうだと断念した経緯もありました。
play to earnは、ゲーム領域でビジネスを模索する中で、ユーザーの“課金疲れ”に気づいたことから発想しました。課金してゲームを進めてもらうのはもう限界だろうと思い、それなら仮想通貨をあげてしまうのはどうか、と。そこから、NFTとトークンエコノミーの世界が表裏一体となって動くような設計が生まれました。
安本
トークンエコノミー、つまり経済圏をつくり上げる点では、当然ですが規制が出てくると思います。ただ、増田先生からは以前、金融商品取引法よりも運用面のハードルのほうが高いとお聞きしました。法規制ではどういった点を注意するべきでしょうか?
増田
実は、日本の金商法が規律するのは基本的に有価証券で、いわゆるセキュリティトークンはともかく、一般的なトークンはこれに該当しないと考えられています。米国では一般的なトークンも証券法の規制対象に含む見方をするので別の注意が必要ですが、少なくとも日本法上は、証券規制はあまり気にする必要はありません。
他方、一般的なトークンはビットコインと同じように、資金決済法上の暗号資産に該当します。発行することそれ自体にはあまり規制はないのですが、それを売買したり他の暗号資産と交換したりする、もしくはそうした取引の場を用意した瞬間に、その行為が暗号資産交換業としての規制対象になります。そうすると、新たなトークンを販売したいと考えた場合には暗号資産交換業者を通じて行うこととなり、こうした手法をIEO(Initial Exchange Offering)と呼んだりしますが、暗号資産交換業者が新たな暗号資産を取り扱う際は当局への届け出が必要で、かつ、業界団体であるJVCEA(日本暗号資産取引業協会)によるかなり長い審査プロセスが必要になります。
現状、こうした暗号資産交換業者を通じたIEOが実施された暗号資産は、ハッシュパレットさんのパレットトークン(PLT)だけなんですね。この遅さや間口の狭さは業界でも問題視されていて、議論が進んでいます。

安本
では、ユーザーが実際に売買するにあたり、所有権や著作権の問題はどう考えればいいでしょうか?
増田
まず所有権についてですが、そもそも法律上、所有権とは形あるものにだけ成立します。NFTには所有権は生じません。他方、NFTはもともとブロックチェーンを用いた仕組みであり、秘密鍵を保有している人物以外にはそのトークンを他のアドレス移転できないという形で、秘密鍵の保有を通じた事実上の排他的支配が技術的に実現できていることから、法律上の所有権に期待されるような機能が必要であるかというと、疑問があります。こうした点を踏まえると、NFTが“デジタル所有権”を実現するのだ、といった説明はいささかミスリードだとは思っています。
また、NFTに関する法改正をしてはどうか、といった議論もありますが、私はむしろ、法律による規律ではなく、技術的な仕組みや民間の創意工夫によって解決できる問題が多いと思っています。NFT自体は、暗号資産に該当するような例外的な場合以外には実質的に無規制であり、実はビジネスがしやすい環境であるともいえ、NFT関連ビジネスは現に沢山生まれ始めています。ただ、事業者の消費者に対する説明などに対する規律は重要ですね。業界団体でガイドラインをつくる試みなどが進んでいます。
安本
なるほど。最後に久保田さん、NFT関連で多額の投資が行われている状況をご覧になってきたと思いますが、これから日本のプレーヤーはどうしていけばいいでしょうか?
久保田
壮大な問いですが、ひとつ言えるのは、Web3の世界でグローバルで戦うなら“日本”をあまり打ち出さないほうがいいと思うんですね。日本人のチームであることは、例えば日本市場でコミュニティを形成する際などにはもちろん有効である一方で、国境のなきWeb3の世界はDay1からグローバルです。日本を軸にモノを考えすぎると気づくとガラパゴス化しかねません。NFTビジネスを考える上で、コンテンツ自体は日本固有の強さがあるのは事実ですが、そこに拘りすぎたがゆえに、知らずに日本という殻に閉じこもる発想に陥らないよう、多少の注意が必要かもしれません。
増田先生のお話にあったように、今のところ日本ではNFTビジネスを展開しやすい状況なので、十分チャンスはあります。諸外国の好例も参考に、独自のビジネスを開発していけるといいですよね。

安本
まだ手探りの領域において、お三方とも示唆に富んだご意見ありがとうございました。博報堂DYグループとしては、コンテンツとファンとの間にNFTが介在することで新しいコミュニティが生まれ、さらに経済圏を確立できるよう、多様なプレーヤーと協業しながら広くチャレンジしていきたいと思います。ぜひ皆さんとともにNFTビジネスを広げていけたら幸いです。
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  • 椎名 茂
    椎名 茂
    uMi取締役会長
    大手コンピュータ企業の中央研究所でAIの研究者として多くの論文作成や学会発表を実施。 コンサルティング業界へ転身後、PwC(株)の代表取締役社長、KPMGコンサルティング(株)の代表取締役副社長を歴任。その後、ブロックチェーンの将来性に着目し、2018年にシンガポール法人(Digital Entertainment Asset Pte. Ltd.)参画。 2022年1月、uMi取締役会長に就任。慶應義塾大学理工学部訪問教授、日本障害者スキー連盟会長
  • 久保田 雅也
    久保田 雅也
    WiL パートナー
    ベンチャーキャピタリスト、主な投資先はメルカリ、Hey、RevComm、CADDi等。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当し、創業メンバーとしてWiLに参画。Quartz Japanにて「Next Startups」のほか、日経ビジネスで「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウント@kubotamas
  • 増田 雅史
    増田 雅史
    森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
    スタンフォード大学ロースクール卒。理系学生から転じて弁護士となり、事務所ではITプラクティスグループの責任者を務める。IT・デジタル関連を一貫して手掛け、ブロックチェーン分野に精通している。ブロックチェーン推進協会アドバイザー、『NFTの教科書』編著者、『NFTビジネス見るだけノート』監修者。Twitterアカウント@m_masuda
  • 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ イノベーションセンター長
    慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了後、1989年に博報堂入社。2015年に博報堂DYメディアパートナーズへ。
    入社以来、人事制度改革、経営戦略策定、M&A、関連会社の設立など、博報堂DYグループの組織変革に携わる。
    2019年より、博報堂DYメディアパートナーズ イノベーションセンター長として新規事業開発、メディア・コンテンツ事業に関する先端技術・ビジネスの研究、業務プロセス改革の3領域を統括。
    2021年からは、博報堂の新規事業開発組織 ミライの事業センターを兼務。
    2000年にUCLA Anderson School of ManagementにてMBA取得

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