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“国土縮図型都市”浜松市のデジタル・スマートシティの実現へ ~生活者発想型MaaSの構想と実装へ向けた取り組み~
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“国土縮図型都市”浜松市のデジタル・スマートシティの実現へ ~生活者発想型MaaSの構想と実装へ向けた取り組み~

博報堂は静岡県浜松市における“浜松版MaaS構想”に参画しています。関連する様々なステークホルダーの間に立ち、生活者目線のMaaSの実装に向けたさまざまな取り組みをしていくのが博報堂の役割です。さらに浜松市と博報堂は連携協定を結び、MaaSのみならず、デジタルの力を最大限に活用した“生活者起点”のまちづくりに取り組み、ニューノーマルなモデルの創造に取り組んでいます。
 プロジェクトにおける博報堂の取り組みの内容や狙い、今後の展望などについて、博報堂でプロジェクトを担当するメンバーに聞きました。
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堀内
博報堂マーケットデザイントランスフォーメーションユニットの堀内です。全社のMaaSタスクフォースのリーダーとしてMaaS関連の業務開発に取り組んでおり、その一つが今回お話する浜松版MaaSのプロジェクトです。浜松市はデジタル・スマートシティに取り組んでいらっしゃいまして、その入り口としてMaaSを位置付けています。
畠山
プロジェクトの全体プロデュース担当の畠山です。MaaSをはじめ、交通基盤や生活基盤が大きく変わろうとするときに、博報堂として交通や生活をどう考えなおすか、そこで何が出来るか、ということを考える役割を担っています。堀内と私が設計したことを瀬尾や古矢が実装に向けて構想したり、プログラムを作ったりします。
 今回のプロジェクトは、浜松市が“浜松版MaaS構想”を策定して公示したので、それに我々がエントリーしたことからスタートしています。
瀬尾
ブランドイノベーションデザイン局の瀬尾です。普段はクライアントの事業開発コンサルティングやスマートシティ・MaaS関連の事業開発を担当しています。今回のプロジェクトでは、MaaSと他の産業をどう組み合わせるかを考えたり、それを促進するためのプログラムを提案するなどしています。
古矢
堀内と同じマーケットデザイントランスフォーメーションユニットの古矢です。今回のプロジェクトではモビリティ領域の構想と、それを実装にどう落としこむのかを考える役割を担ってます。

知見は無かったが絶対やるべき仕事

畠山
浜松市のMaaS構想に我々が手を挙げた理由は二つあります。一つは、浜松市は人口が80万人いる都市であり、郊外も中山間部もあり、市の土地の面積としては2番目に大きく、いわゆる国土縮図型都市と言われています。ですので、浜松市にはいろいろな顔があり、その分課題が集積しているんです。
博報堂は、デジタル化で生活者とあらゆるモノが常時・双方向につながり、その接点に新しいサービスや体験が生まれていく「生活者インターフェース市場」を見据えた取り組みをしているので、浜松市のようにあらゆる課題が集積している自治体の課題解決のお手伝いをするのはとても意義があります。
 もう一つは、浜松は政令指定都市という大きい行政があり、自動車メーカーがあり、鉄道会社・バス会社含めた公共交通機関があり、今回のMaaS構想がそういった座組の中で発想されたことです。これまでは、ややもすると自動車メーカーと公共交通、公共交通と行政は対立構造になることもありました。しかし、今回のMaaSに関してはその三者で一緒になって作っていこう、という機運がありました。そういった中で、博報堂が新しいまちづくりや、その根幹となるMaaS構想を考えられたらとても意義深いと考えました。
 一方で、参画した当時の我々は浜松市の交通に関して詳しかった訳ではありませんでした。しかし、そうした状況を鑑みて、博報堂として是非取り組むべき仕事だと考えました。
堀内
様々な課題が詰まった浜松市は、日本版MaaSを考える上で、避けて通れないと感じました。
 今回のプロジェクトは交通基盤だけでなく、生活基盤までも捉えなおすものでした。ですので交通以外にも観光、医療、林業などに関わる様々な立場の方にヒアリングしました。
畠山
私と堀内中心にプロジェクトに取り組むことを決め、その後に瀬尾や古矢に声をかけました。どういう形のMaaSが最適かということには答えがありませんし、さらに新型コロナ禍によってニューノーマル時代のまちづくりというテーマも加わりました。ですので、我々としてはまず原点に立ち返って、博報堂のフィロソフィーである「生活者発想」、「パートナー主義」を突き詰めるタイミングなのではないかと考え、そのような視点でチーム作りをしました。
 今までの業務は、クライアント企業の課題をBD局のビジネスデザイナーが見つけ出し、それを細分化し、それぞれの課題に対応できる専門家を集めてチームを組んでいました。しかし今回のプロジェクトでは職種を問わないフラットな組織にしました。誰が何をやると決めず、横並びで取り組むことが重要だと考えたからです。大切なのは「浜松をきっかけに日本のモビリティ、公共交通を変えていこう」という想いであり、それに共感するメンバーが集まりました。
古矢
チームメイクする際、浜松市の市民の方の目線に立ちやすいように、地方出身者を集めたんです。私も静岡県の三島市出身ですし、浜松市出身のメンバーもいました。
堀内
浜松には大企業だけでなくスタートアップもあります。いろいろな地場産業が生まれているので、そこを舞台にしたときに地元の方と一緒にどういう新しいサービスやビジネスを作るかは非常に面白いところですね。
瀬尾
MaaSは手段であって目的ではありません。今回は様々な領域の事業者がプロジェクトに参加しているのですが、普段通りの姿勢で臨むと、自社のソリューション起点の発想になってしまいがちです。今回はそれを避けるため、浜松市の課題や市民生活の課題から発想するためのアイデアソンのプログラムをプロデュースしました。
 アイデアソンでは、各領域の課題ベースでMaaSを使い倒すことを考えました。例えば、医療分野であれば過疎地域への遠隔地医療に、林業であれば林業従事者への業務支援にMaaSを使う、といったことを考えていきました。
堀内
構想を作る際も勿論ですが、実装となるともっといろいろなお話を聞かなくてはなりません。浜松市の課題としては例えば、都市部では雨になるとものすごい渋滞が起こる、電車の乗り継ぎが中心地のターミナル駅を必ず経由するので、たとえ直線距離が近い駅でも移動にかなりの時間がかかる、といったものがあります。そういったヒアリングで分かったことをしっかり踏まえた上で構想を作り、さらに実装まで進めていこうと考えています。
古矢
私は各公共交通の収支率、住民の世帯構成、免許保有率など細かいデータを集め、交通分野専門の大学教授にもヒアリングをして分析を進めています。将来的には、他の地域でも使える分析のパッケージを作れたらと考えています。
堀内
今、世の中にある交通に関するデータは、既存の交通をどうアップデートするかという視点のもので、「このエリアの人を運ぶにはどのくらいの交通が必要か」といったゼロベースで考えられるデータはないんです。この状況を生活者発想で見直すことが重要になっています。
畠山
日本はこのままいけば高齢化で免許返納が進み、移動の総量が減っていきます。そういった課題に対して我々がどういうことが出来るか、課題を深堀し、可視化させることが必要です。机上の分析に止まるのではなく、n=1、すなわち個々人に向けたキラーコンテンツを創造したいですね。

博報堂は生活者の代弁者

畠山
博報堂は「生活者インターフェース市場」を見据えた活動に重きをおいており、今回のプロジェクトはその実践のためのものだと考えています。生活者はただテクノロジーに繋がっただけでは、メリットがありません。様々なサービスが融解し、シームレスに繋がり、利便性が高まることに意味があります。今回のプロジェクトでも様々なステークホルダーがいらっしゃいます。その皆さんの間に立って、融解を進められるのが博報堂ならではの役割だと考えています。
堀内
博報堂のためにではなく、あくまで市民の代弁者という立場で参加し、プロダクト発想やソリューション発想ではなく、生活者のためのサービスとは何かを常に問い続けることが出来れば、我々の価値が生まれてきます。
瀬尾
プロジェクトの途中までは、それぞれの分野における課題解決や付加価値創造などのアイデアを行政担当者やアカデミアへのヒアリングや各事業者とのディスカッションを繰り返しながらボトムアップで構想を進めました。こうしたプロジェクトはトップダウンで進むことも多いので、非常に珍しい形だと思います。
 そうして集まったものを浜松版MaaSにまとめていく際、どういうコンセプトに落とし込むかということについて、我々が意見をまとめたり、アイデアの拡散と収束を繰り返すということを丁寧にやっています。
堀内
博報堂社内のメンバーから「お前は博報堂の利益のことを考えているのか。住んでいる方の利益は考えているが、自社の利益にどう繋がるか考えていないのではないか」と指摘を受けたことがあります(笑)。ただ逆に言うと、だからこその生活者発想なんです。これは我々の唯一無二の強みであり、これは構想だけでなく、実装の時にも生きてくる考え方だと自負しています。もちろん、博報堂の利益を考えることも腕の見せ所ですが、順序が違う。皆さんに長く使っていただける生活インフラ発想でのサービスを追求すべきだと考えています。
古矢
通常こういった大きな構想を描くような業務では、構想して終了ということが多いのです。それが実装まで行くと、構想の時に見ていたデータとは違うデータを詳しく見ることになります。例えば構想段階では、「地域の移動課題は何なのか」と考えていたところを、地域交通の運行実績等を元にもっと細かく「その課題はどのぐらい費用をかけて解決すべき課題なのか」といった具合で見る必要があります。また実装する際には地域プレイヤーの利益を侵害していないか、どうすれば協力関係を築けるか、といったことも考慮に入れる必要があります。分析し、実際にやってみて、上手くいかないことがあれば修正して、次の分析からそれらを加味して、といったPDCAを回す流れがとても大切だと感じています。
堀内
古矢は広告効果を分析する部門にいたので、実績データからコストパフォーマンスやユーザーの反応がよくなるよう施策を設計すべきという考えで取り組んでいるのですが、まだ世の中的にMaaSが実装の段階まで来ていないので、そういったPDCAを回しようがないんです。我々は、浜松というフィールドで、構想だけでなく実装まで含めてPDCAを回したいと考えています。古矢の取り組みは、「実装するにはデータが要るし、そのためには実証実験が必要だ」という考えに基づいたものですね。
古矢
データを使った需要の予測等にも取り組みたいのですが、そういった取り組みは通常、過去のデータがあって、そこからシミュレートします。しかしMaaSは前例がないので、正解のデータどころか失敗のデータすらありません。失敗も成功もないから、まずは我々がやって、何らかの結果を得て、そこから学びを得て、というフローを作らなくてはならないのです。

博報堂が主語になる新しい取り組み

畠山
プロジェクトを通して、「博報堂は、これから実装にまで取り組まなくてはいけない」という考えがどんどん強くなっています。広告作りは、いい意味で「空気を作る」作業です。我々はテレビCMで“買いたいな”“面白いな”と思ってもらえるような構想を作ることを得意としてきました。今回はそれに、フィロソフィーである「生活者発想」、「パートナー主義」を突き詰めて実装にまで繋げる、ということが新たに加わっています。
堀内
自治体の方とお話する機会が非常に増えたことで感じたのは、「国や地域をどうしていくか」を構想することは、博報堂ととても相性がいいということです。自治体こそ住民の方々と密接に接点を持つ、生活者発想のかたまりのような機関なので、我々と発想の仕方が似ていて、とても親和性が高いです。
畠山
我々としては構想だけでなく実装にまで関り、社会に価値ある存在になっていけば、そこには利益がうまれてくると考えています。ですので、まずは地方の生活者を深く理解したコンテンツやサービス、さらにはシステムを作ることが重要だと思っています。今回の浜松市との取り組みでも、我々が富山県朝日町で実証実験をしている「マイカー自家用有償サービス」の知見も活かし、地域全体の交通や生活サービスを設計していきます。その中で、地域の住民の方々や交通のデータも活用し、地域交通を再構築する仕組みや最適化していくシステム開発も推進していきます。
このような実証実験を繰り返していくことは、リアルなフィールドで地域交通の課題解決の実績を積み、博報堂が新たな領域で価値を提供できる機会を増やしていくことにもつながると考えています。
堀内
よく社内で、「なぜ地方なんだ」と言われるんです。しかし自治体の92%は地方にあり、人口の5割は地方に住んでいます。逆に地方を見ないということは、「8%だけを相手に仕事をしている」ということになるんです。
畠山
我々は浜松市の構想策定業務で評価いただき、さらにMaaSに限らず、さまざまな生活者課題を一緒に構想して実装しましょうという連携協定を2020年10月に結びました。この連携協定の元、2021年3月には持続可能な地域交通の確立に取り組むことも発表しています
古矢
この発表にある通り、中山間地域春野地区にて共助型交通サービスの導入や既存交通手段全体の再編を進めています。それを元に他の中山間地域や交通空白地が広がりつつある郊外地域への展開もしていく予定です。こういった交通の課題解決から始め、最終的には地域の豊かさ・賑わいを増進する取り組みに繋げていきたいです。
浜松市MaaS構想資料より
畠山
これは浜松市と信頼関係ができた証だと思いますし、自分達が「生活者発想」、「パートナー主義」に責任を持つということの宣言でもあると考えています。今回のプロジェクトは自分達が主体となって、行政、生活者、そして自動車メーカー・公共交通機関をはじめとした民間企業との共助・共創基盤を構築するという新しい取り組みです。博報堂にとって大きな意味のある仕事だと考えています。
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  • 博報堂 ビジネスデザイン局 部長(兼)MaaSプロジェクトメンバー
    奈良県生駒市出身。
    2003年入社後、営業職として広告業務などに9年携わった後に、営業職を離れ、従業員組合の委員長として会社運営へコミット。その後、大手通信会社を担当し、2016年人事局に異動。人事制度設計などを担当し、2019年度より社会課題解決と得意先課題解決を両立し、博報堂の次世代収益作りを取り組むプロデューサーとして邁進中。
  • 博報堂 マーケットデザイントランスフォーメーションユニット 部長
    マーケティングディレクター
    5G/IoTプロジェクト・MaaSプロジェクト リーダー
    京都大学工学部地球工学科卒、同大学院社会基盤工学専攻修了。
    2006年博報堂入社以来、マーケティング領域を主戦場に、通信キャリアや自動車メーカー等の業務に従事。
    近年は、新規事業の成長戦略策定やデジタルマーケティングの経験を活かし、マーケティングソリューションや次世代デジタルメディア開発、新規サービスや事業開発など、広告代理店やマーケッターの枠を拡張する業務がメインに。
  • 博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 ビジネスプランニングディレクター
    2006年博報堂に入社後、家電・自動車などのブランディングやマーケティング支援に携わった後に、飲料メーカーへ出向し、ブランドリーダーとして新規事業開発やプロジェクトマネジメントなどを担当。現在は、暮らし全般に関わる企業の事業やサービス開発を生活者視点で推進するプロジェクト・プロデュースや、生活者の新しい暮らしをデザインする自社事業開発などに取り組んでいる。
  • 博報堂 マーケットデザイントランスフォーメーションユニット ビジネスプラナー
    2016年博報堂DYメディアパートナーズ入社。DMPを用いたソリューション開発・分析に従事した後、2020年から現職。
    データを用いたビジネス開発経験を活かし、MaaSやサイネージ開発に取り組む。

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