
CYLOOK甲山翔也が挑戦するのは、eスポーツがカルチャーになる未来(前編)
エンターテインメント領域におけるテックベンチャーとコンテンツを共創し、その魅力を世界へ発信する博報堂DYグループの新事業「HYTEK(ハイテク)」。
本連載では、代表の満永隆哉と道堂本丸が、様々なクリエイターやプレーヤーと「エンターテインメントの未来」について語り合います。
第二回のゲストは、プロeスポーツチームREJECT (リジェクト)を運営する株式会社CYLOOK(サイルック)の甲山翔也さん。
昨年9月から渋谷の109フォーラムビジョンでブランドコンセプトムービーを展開するなど、国内のeスポーツチームでは初となる試みが話題となっているREJECT。
「NOT JUST A GAME」というコンセプトを掲げ、そのブランディングに携わるHYTEK満永が、甲山さんとともにeスポーツのいまと未来について語ります。
賞金10万円から3億円に。急変する日本のeスポーツ界
- 満永
- 甲山さん、今日はよろしくお願いします。僕と甲山さんは昨年の6月くらいにはじめてオンラインでご挨拶して、それからブランディングのお手伝いをさせていただいていますが、まずはこの対談を読んでくださっているみなさんに、甲山さんとREJECTについてご紹介したいと思います。

- 甲山
- 現在40名が在席しているREJECTというeスポーツチームを運営しています甲山と申します。いま21歳で同志社大学の4年生。大学はしばらく休学しているのですが、もともとパソコンのシューティングゲームのタイトルで何度か日本一を獲ったことがあり、その延長から自分でチームを持つことに。2018年にCYLOOKを設立して、昨年の12月にエクイティファイナンスによる調達資金が6000万に達しました。今は六本木に本社を構えて「NOT JUST A GAME」というコンセプトで世界に発信しています。
- 満永
- ありがとうございます。甲山さんはもともとプレーヤーとして第一線で活躍していたからこそ、eスポーツへの並々ならぬ想いがありますし、もっと日本のeスポーツを変えていかなきゃという課題意識を持たれているところがすばらしいなと思ってご一緒させてもらっています。REJECTは日本でもトップクラスの強いチームで、FPS*のタイトルでは世界大会も何度も出場していますよね?
*FPS …First Person Shooter(ファーストパーソン・シューター)一人称視点シューティングゲーム。操作するキャラクターの視点でゲーム内を移動して戦うシューティングゲーム。
- 甲山
- はい、世界大会への出場は日本チームで最多。最近では新型コロナの影響でオンライン開催になっていますが、これまでに7回出場しています。
- 満永
- 世界の舞台で戦って活躍しているにも関わらず、日本でのeスポーツの立ち位置というか、イメージみたいなものがあまりよくないようにも思うのですが。
- 甲山
- そうですね。日本はもともとゲーム大国ですが、ファミリー向けのタイトルがたくさんあって、家族で楽しむものというイメージ。競技という感覚があまりなかったのもあると思います。法の規制で昨年までは大会の賞金を出すこともむずかしくて、2018年のCYLOOK設立当初は、大型の大会でも賞金は10万円が上限だったんです。
でも、昨年の11月に「PUBG MOBILE」*のスポーツリーグを立ち上げるという発表があって、この賞金総額が年間3億。10万円から3億に一気に跳ね上がった。僕らは「PUBG MOBILE」で常に1位を走り続けていたので、このリーグに参入させていただくことが決まりました。
*全世界で月間1億人がプレイするバトルロイヤルゲーム。2019年12月には全世界総ダウンロード数6億を達成。世界中で大会が開催され、高い人気を誇る。
- 満永
- 10万円から3億。2年でそこまで変わったのはすごいですね。
- 甲山
- もう、本当に。モバイルのゲームはパソコンを持っていない人でもできるので、人気のタイトルは世界で6億、7億とダウンロード数が増えてるんです。まず世界大会で賞金総額が大きくなり、日本でも賞金総額が年間3億円という夢のあるリーグが立ち上がったと。
- 満永
- ダウンロード数が6億、7億といったら、競技人口としてはメジャースポーツとまったく遜色ないですもんね。
いままさに、スポーツの創成期を見ているような、その盛り上がりを一緒につくっている感覚がとても楽しいです。
ゲームはライフスタイルの一部。「ゲーマー」という言葉はなくなった
- 甲山
- 僕がすごくおもしろいなと思っているのが、いま日本の若者の中で「ゲーマー」って言葉が死語になっているんですよ。なぜなら、中高校生でゲームをやってない人なんていないから。わざわざ呼び名を付ける必要がないんですよね。ドッジボールやってる人を「ドッジボールマン」なんて言わないのといっしょ。プロゲーマーは存在してもゲーマーというのは存在しないんです。
ここまでライフスタイルの一部になっているという事実もそうですし、もうひとつ注目すべきだと思うのが、体格のハンディがないということ。これまでスポーツでは、日本人はフィジカル面で外国人選手に太刀打ちできない部分もあったかと思います。でもeスポーツではそこがまったくハンディにならない。車椅子で生活している方でも関係なく戦うことができるというのがすごく魅力的だと思っています。これがスポーツとして、アスリート競技として認められるとなれば、こんなにハッピーなことはないなと思って挑戦しているところです、という…。すみません、長く熱く語ってしまって(笑)。
- 満永
- とんでもない(笑)。そのくらいライフスタイルの一部になっているというのも、体格関係なく戦えるというのもすごくすてきだと思います。ある種、言語も人種も宗教も関係なく一緒にやれるスポーツって、実はいままでなかったんじゃないかなと。
この前いっしょに世界大会に行ったとき、世界中に仲間がいる感じとか、すごくコミュニケーション取り合ってチームで戦っているというのをみて、実感しました。
昔はゲームって部屋にこもって一人でやるものみたいに思ってましたが、まったくイメージが変わったんですよね。この感覚がもっと日本のみなさんに浸透していってほしいですね。
挑戦する人を応援する“鉛筆削り”みたいな存在でありたい
- 甲山
- もともとゲーマーってネガティブな要素しかなかったと思うんですよ。僕自身も子どもの頃ゲームやめなさいと怒られていた人間なので(笑)。でもサッカーしていてやめなさいって言われたことありますか?ていう話なんです。もっとやりなさいと応援されていたはず。
ゲームでただ遊んでるだけだったら「just fun」なのかもしれませんが、競技のほうに真剣に取り組んでいるのであれば、その姿勢を応援できる社会になってほしいと本当に思います。
日本ってもともと、挑戦する人を応援する文化があまりない気がしていて。
僕らは鉛筆削りみたいな存在になりたいんですよね。もともとみんなすごいポテンシャルを持っているはずだから、それをしっかり磨いてあげて、尖った人間をどんどん輩出していきたい。何かに挑戦する人を応援したいんです。
- 満永
- そこは本当に共感します。ゲームに対するネガティブなイメージをポジティブに変えていきたいという想いが「NOT JUST A GAME」というメッセージに込められていますよね。
たとえばバスケだって以前日本ではマイナースポーツでしたし、バスケでは食えないよって言われてた。ダンスもいまでこそ注目されてるけど、ちょっと前だったらダンスなんて社会人になったらやめなさいって言われてた。
いまはバスケットボールプレーヤーもプロダンサーもちゃんと親が応援してくれる職業になりましたが、それと同じようにeスポーツ選手もきちんと社会的に認めてもらえる状態をあと何年でつくれるか。そう考えるとめちゃくちゃワクワクしますよね。
eスポーツを“いい世界”と思ってもらうことがチームの責任
- 甲山
- 大手企業が一気に参入されることで、思ったより早くそういう状況が見られるんじゃないかと思っています。だからこそ、それが“いい世界”と見てもらえるようにするのが、われわれチーム経営をしている人間の手腕。優勝した選手がどれだけの人格者かというのもすごく大切だと思ってます。たとえばマイケル・ジョーダンみたいなカリスマだったり、カルチャーをつくっていくような人間が生まれるかどうか。
そのためには、熱い想いをもった選手をしっかり育てて、カリスマと言われる選手をどこまで尖らせられるかが重要なんですよね。あと何年かかるというより、僕としてはこの1年で一気に変えていきたいです。
- 満永
- いいですね、HYTEKとしても全力でサポートさせていただきたいです。
どの業界でも、スター的なプレーヤーの存在と、プレーヤーが集まる大会、それをお茶の間に広げるメディアという3つが揃わないとエコシステムが回っていかないと思うんですよ。
REJECTのようなチームが選手を育て、大手企業が大会を立ち上げ、あとは新聞社が甲子園を盛りあげるみたいに、メディアが受け皿をつくっていく。みんながeスポーツを観戦して熱狂するような未来が来ると思うと、ゾクゾクしますよね。5Gの普及や、ARやVRなど技術の進化にも合わせて、オフラインの会場とオンラインでの視聴者との壁を無くしていくような、これからのスタンダードとなる新しい体験作りも行っていきたいです。

- 甲山
- できる限り早めにそうなると、すごくいいな。
eスポーツの日本での“現在地”をきいたインタビュー前編。後編では、中国や中東の現状から、eスポーツの未来を探ります。
■HYTEKでは中東eSports市場レポートの提供や、eSports市場のセミナー・勉強会も開催しております。ご希望・ご検討されている企業様はこちらまでお気軽にご連絡ください。
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甲山 翔也CYLOOK1999年大阪生まれ。10歳よりesports選手として活動し「CSO2」で日本一を経験。同志社大学2回生時にREJECTの前身となる「All Rejection Gaming」を設立し、当時19歳で当社を設立。2019年末にプロeスポーツチームとして国内初のVCからの資金調達を実施しeスポーツスタートアップとして上場を目指し急拡大中。
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HYTEK 代表/CULTURAL CONTENTS DIRECTOR2015年博報堂入社。関西支社クリエイティブ・ソリューション局プロモーション・PR戦略グループを経て、2018年に第二クリエイティブ局に異動。グローバルクライアントのPR・プロモーション・コピーライティングを担当し、ACC・OCC新人賞・販促会議賞・ JAA広告賞・朝日広告賞など受賞。パフォーミングアーティストとしても国内外で活動を行い、NBA公式戦・TEDxKEIO・音楽イベントなどのステージに出演。アーティストプロデュースや演出も行う。エンターテインメントの表舞台と裏方と、マスとストリートとを繋ぐことを目標に活動。現在は、HYTEK設立準備室立ち上げを専任。