
世界は日本のテックベンチャーを求めている。“クリエイティブ×PR投資”で新たなビジネススキームをつくるHYTEK、始動!
博報堂DYグループから野心を抱く新たな事業が今秋、デビューします。
その名もHYTEK(ハイテク)。エンターテインメント領域におけるテックベンチャー企業とコンテンツを共創し、これまでと異なるスキームで国内外に打って出る構想を掲げます。
HYTEKはテックベンチャーの持つ独自の高い技術力と、博報堂DYグループの持つクリエイティブ力を掛け合わせ、魅力的なコンテンツを制作。そのコンテンツのPRを起点に、クライアントを呼び込み、テックベンチャーにスポットライトを当てる試みにチャレンジします。
HYTEK設立準備室を立ち上げ、すでに、パートナーとなる複数のテックベンチャーとのコンテンツ開発を進めている代表の道堂本丸、満永隆哉に、自身のバックグラウンドから事業の成り立ち、今後の展望について聞きました。
テックベンチャーが主役になり、世界を目指す
──HYTEKの事業を着想されたきっかけは?
- 道堂
- これまで広告会社は、アカデミックな領域に眠る優れた技術を探してきました。クライアントからのイベント仕事などに合わせ、テックベンチャーが自社技術を盛り込んだプロダクトも作ってきた。ところが、使われている技術は素晴らしくとも、目立つのは広告会社やクライアントの姿ばかりであることにジレンマを感じていました。裏側の技術をつくる職人のような彼らをヒーローにしたい。それが大元にあった思いです。
たとえば、ドーム球場のような広い空間で、身に付けたものに異なる映像や光を100人以上同期させて表示できる技術があります。オリンピックの入場行進で選手を光らせることも実現可能なのですが、こういったバックエンド技術は表立って見えてきません。
その理由は、テックベンチャーの「リソースが足りない」という悩みです。博報堂の研究開発局で様々なテックベンチャーの方たちと関わるなかで聞いたのは、営業案件の見極め、自社技術のPRやクリエイティブへの昇華といった「技術を磨く以外のこと」に手が回らない現状があるということ。
そこでHYTEKは、クライアントからの要請に応じてテックベンチャーと組むのではなく、僕たち自らがテックベンチャーとクリエイティブを行い、できたコンテンツをグローバルを含めてPRしていく。そのPRに反応したクライアントとビジネスを進めるというスキームを考えています。海外からの要望でも「日本で流行っている新しいテクノロジーといち早くコラボレーションしたい」というニーズを多く聞きますので、世界も視野に入ってきます。
- 満永
- コンセプトやコンテンツ制作といったクリエイティブは、博報堂での武器を活かしながら、アーティストなどともコラボレーションしていきます。協業相手としては、「PRしたい!」と思える技術、エンタメ領域で生かせそうなものを持っていることが根幹。彼らと一緒に「もっと先の世界」を見られるように、僕らもプランニングやPR活動などに汗をかきます。
2015年同期入社のふたりが、目的に向かって意気投合
──お二人とも2015年入社の同期だそうですね。博報堂でどのような経歴を歩まれてきたのでしょう。
- 道堂
- 名前が「満永」と「道堂」なので、新入社員が最初に集まったとき前後の席となり、そこで知り合ったのが出逢いですね。
僕はもともと、大学生の頃から、ヒューマンインターフェイスやセンサーネットワークを用いた新しい表現やUIの研究をしていました。その縁で、体にLEDをまとわせ、それをダンスパフォーマンスに合わせて同期させるウェアラブルコンピューティングの開発にも関わったんです。アーティストのライブなどでも使っていただき、大学院時代には、ほぼ貼り付きで地方会場まで手伝ってました(笑)。
博報堂に入ってからの、最初の配属は研究開発局と博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターで、統計解析を用いたデータマーケティングのツールやソリューションの開発に携わりました。ただ、やはり広告会社に入社したからには、もう少しアウトプットにも関わりたいと考えて、ARやVRを体験してもらうためのタッチポイントの研究もしていきましたね。
その後にTBWA HAKUHODOに異動しました。開発したマーケティングツールをいかにクライアントへ使っていただくか、という接点の部分を担うことになり、外食大手の外資系企業などとの仕事を経験しました。

- 満永
- HYTEKの仕事にもつながってくるのですが、僕は大学時代からフリースタイルバスケットボールというパフォーマンスを続けてきて、ロサンゼルスやニューヨークでパフォーマーとして活動していたんです。バスケリーグハーフタイムショー、タレントショーやテレビ、ゲイバーなども含め、いろいろなところに出演してなんとか生活もできていて。
僕は日本ではトップパフォーマーではないのに、アメリカでは生活が成り立ってしまったことが、自分なりには大きなショックだったんです。向こうは毎日オーディションがあり、スターが生まれている国です。ダンサーとしてナンバーワンとして認められると、ラスベガスに劇場が持てるくらいに夢がある。メディアやお客さんからもリスペクトされ、表現に対してお金をいただけます。
その現実を見て、「日本は表現者として卓越した技術を持った方々がたくさんいるのに、レッスン講師や審査員などでしかお金をもらう出口がないのは、実にもったいない」と悔しかった。自分はアメリカで得たこの気づきを胸に、パフォーマーやアーティストなど本物の技術を持った人々と、世の中を接着させられる仕事は広告だと考えたのが、博報堂に入社した経緯です。
──その意味では、HYTEKでやろうしていることにも近いですか。
- 満永
- そうですね。メディアや世の中の人たちの関心を変えるという意味において、一番にニュートラルな手段が広告ではないかと思っています。個人的にはその「なんでもやれる環境」にこだわっていきたいと駄々をこねて、結果的には関西支社のプロモーションPR戦略グループへ配属になりました。
新卒はまず配属されないどころか、この20年間で新人プラナーとして入ったのは自分だけ。でも本当に楽しくて、支社の細かなイベント業務なども全部請け負ってきました。次に配属されたのは東京の第二クリエイティブ局で、日系企業のグローバルプロモーションの案件などに携わりました。並行して、パフォーマーとしての個人活動も続けています。
そして、道堂はクリエイティブエージェンシーとしての立ち位置が強いTBWA HAKUHODOだけでなく、もっと表現手段に近いコンテンツ開発に携わりたくなってきた。僕もパフォーマーやアーティストだけでなく、クリエイティブとPRの能力を付与していければ、技術を持った企業も大きく伸びる可能性があると考えていたところで意気投合。AD+VENTURE(※博報堂DYグループ横断で推進している、公募型・ビジネス提案制度)に応募し、今に至るわけです。
ベンチャーと博報堂、両方のカードが使える社内起業
──そこで独立ではなく、博報堂DYグループ内での起業を選ばれた理由は?
- 道堂
- 良い意味で博報堂DYグループという名前はちゃんと武器になると思っています。事実、博報堂DYグループの様々な会社や部署からもたくさんの連絡がくるようになっています。
- 満永
- クライアントによってカードを使い分けられるのは大きな魅力です。ベンチャー企業と接する際には、HYTEKという新しいエンタメ組織として「一緒に歩んでいく」スタンスで向き合いながら協業を進めます。ただ、その先で大きなクライアントとマッチングしていくときには、グループ内のリソースも含めて、博報堂DYグループとしてのスタンスをしっかり打ち出せる。
──逆に、そのような動きが、これまでの博報堂では取られていなかったのは、なぜだと考えますか。
- 満永
- 従来の広告会社としての動き方ではないからでしょう。ベンチャーと一緒にクリエイティブに取り組むのは、ある意味では「先行投資」でもあって、目先のマネタイズはまず見込めません。そういった相手に、自分たちのリソースを全て投下できる部署は少なくとも今まではなかったですね。
資金も用意できた状態で、HYTEKがベンチャーと全力で向き合って面白いものを作るところにフォーカスできるのは、とても幸せな環境だと思っています。
──なるほど、ある種のベンチャーキャピタルのような機能もあるのですね。HYTEKは資金ではなくクリエイティブやコンテンツ、あるいは情熱を投資するというような。
- 道堂
- まさに、その通りですね。ベンチャーキャピタルとの違いもあり、HYTEKにはベンチャー側から仕事を紹介されることもあるんです。単に与える/与えられる関係性ではなく、仕事のやり取りも生まれています。
あと、博報堂でこれまで実現していなかったのは、ベンチャーのスピード感に合っていなかったのも大きいと思います。資金面の承認フローをとっても、どうしても時間はかかってしまう。特にエンタメ業界という動きの激しい人たちからすると、スピード感のズレが協業相手として難しかったのだろうと。HYTEKでスピード感は注力事項ですから、ベンチャーの動きに合わせられるのは、博報堂としても重要な変化ではないでしょうか。
文化が「リアルとのハイブリッド構造」になることを見越して
──HYTEKの現状の展望を、ぜひ教えてください。
- 満永
- 日本の技術は、まだ世界に受け入れられる場所、求められる場所があるという肌感を持っています。仕事でタイやミャンマー、中東といった国々を見てきて、「技術が育ってない国」はたくさんありました。それらの国々では、日本のテクノロジーや技術にあこがれを持っていながら、ちゃんと輸入されてはいないんです。日本の技術者のコンテンツを見せたら「こんなものは見たこと無い」と返されることもよくありました。
つまり、僕が体感したアメリカだけでなく、日本の技術がマッチングしきれてない世界がまだまだある。ただ、ベンチャー側に打って出ろというのは、先に挙げたリソース問題など、難しいと思います。それをHYTEKが媒体となって、輸出する役割を担えればいいですね。
- 道堂
- あとは、国内企業の需要も増やしたいです。実は、コロナ禍でひとつ幸運だったのが、特にリアルイベントが絡む企業の場合、イベントが軒並み中止になったため、エンジニアの方々が開発に注力できていることです。その人たちとも来年や再来年につながる仕込みをしつつ、現状でも進行している企業とは積極的に組んで、僕らとしてもマネタイズにつながる動きをしていきたいです。
- 満永
- たしかに、リアルイベントへの跳ね返りは100%起こると見ています。国を挙げた様々なイベントが延期になり、来年ないし再来年に実施されるとしたら、人類が一箇所に集って喜びをわかちあえる久しぶりの機会になる。当然、最も気合いが入ったエンターテインメントが必要とされる瞬間だと思ってるんです。
「やはり人類にはエンタメやスポーツが必要だ」と信じられる瞬間がくるはずですし、だからこそ今、僕らも仕込みを頑張れている。もし入場者が絞られた形で開催することになっても、高付加価値で、より贅沢に楽しめるエンターテインメントが育っていくかもしれない。

- 道堂
- 特にライブ業界の表舞台を支えてきた技術、照明、音響といった裏方の人たちは、非常に仕事に困っていると聞きます。その人たちのために、何ができるかは考えたいです。
個人的には、日本の伝統芸能は世界で評価されるコンテンツだと信じていますので、一度、そちらの方々とはお話できれば嬉しいですね。
- 満永
- 伝統芸能の話を広げると、文化はいろんな構成要素から成り立っていますが、その構造自体が大きく変わるチャンスだとも感じています。構造そのものが変化しつつあるからこそ、これまでオンラインに乗り出せなかった歌舞伎や講談がライブ配信を始めたのだと思うのです。
今後は、ますますリアルとのハイブリッドな構造になっていく。HYTEKのビジネスも拡張し、もっと広い意味で、もっといろんな文化とご一緒していきたいです。
──HYTEKそのものが、広告会社やベンチャーキャピタルといった要素を持った「構造を変える」事業になりますし、自らがそれを体現しようとしていると、お聞きして伝わってきました。今日はありがとうございました。
次回以降、HYTEKの2人が、様々なクリエイターやプレイヤーと、エンターテインメントの未来について語り合っていきます。ご期待ください!
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HYTEK 代表/CULTURAL CONTENTS DIRECTOR2015年博報堂入社。関西支社クリエイティブ・ソリューション局プロモーション・PR戦略グループを経て、2018年に第二クリエイティブ局に異動。グローバルクライアントのPR・プロモーション・コピーライティングを担当し、ACC・OCC新人賞・販促会議賞・ JAA広告賞・朝日広告賞など受賞。パフォーミングアーティストとしても国内外で活動を行い、NBA公式戦・TEDxKEIO・音楽イベントなどのステージに出演。アーティストプロデュースや演出も行う。エンターテインメントの表舞台と裏方と、マスとストリートとを繋ぐことを目標に活動。現在は、HYTEK設立準備室立ち上げを専任。
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HYTEK 代表/TECHNOLOGY CONTENTS DIRECTOR2015年博報堂に入社。研究開発局、TBWA HAKUHODOを経て、現在は、テックエンタメを盛り上げるためにHYTEK設立準備室で奮闘中。大学時代に、ウェアラブルコンピューティングを活用したダンスパフォーマンスシステムの開発に関わる。マーケティングツールの開発やデータ分析に従事する傍ら、ARやVRなどの新しいテクノロジーを活用した次世代顧客接点の研究開発などに携わる。大学やベンチャーの持つテクノロジーの種と企業のビジネスの種を結び付けた事業創造を目指す。2016~2019年ミラノサローネ出展。