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ブランドの価値を生活者の感情に届かせるには【メディアイノベーションフォーラム2018】
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ブランドの価値を生活者の感情に届かせるには【メディアイノベーションフォーラム2018】

テクノロジーによってさまざまなことが便利になっていくなかで、エンタテインメント業界ではファンの体験をどうやって高めているのでしょうか。
11月6日に開催された博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所による「メディアイノベーションフォーラム2018 Beyond Convenience ~便利の先の価値をつくる~」において「これからのブランドと生活者のつきあい方とは」と題したセッションが行われました。スピーカーを、ジュピターテレコム上席執行役員メディア事業部門長/アスミック・エース代表取締役会長 村山直樹氏、博報堂グローバルMD推進局/メディア環境研究所複属研究員 皆川治子が、モデレーターをメディア環境研究所所長 吉川昌孝が務めました。

 
吉川

本セッションで考える内容は「便利の先の価値をつくるためにはどうしたらいいか」という部分です。その前提には情報やお金、モビリティが連動して、フリクションレス(※)が生まれる、ということがあります。メディアの側でも、ブランドの機能を届かせるよりも生活者の感情に届くことが大事なんじゃないかと考えています。
3人での事前打ち合わせでは、サブスクリプションとかダイレクト販売が増えてきているなかで、どうやって生活者の気持ちを盛り上げればいいのかという話になりました。まずは皆川さんどうでしょうか。
※フリクションレスについては、こちらをご参照ください

皆川

NBAのマイアミ・ヒートの事例をご紹介したいと思います。マイアミはアメリカの中で唯一、スポーツでバスケットボールが一番人気という地域です。理由は、単純にヒートが常に強いからなんですが。
そんなヒートは3年前から、ファンが体験している価値をより上げていこうという取り組みをしています。それまでは、例えば試合中に喉が乾いた際、ビールの売り子さんを呼んで小銭を出すのに手間取り、そうこうしているうちに点が入ったところを見逃してしまう…といったことがありました。

こうしたことを無くし、試合の体験価値を最大化できるよう、新たにアプリを開発してそこにさまざまな機能を集約しました。チケット発券やキオスクは別の事業会社が運営していたのですが、ひとつのアプリ上で決済までできるようにしたんです。グッズについても、会場だけでなくECで買えるようにしました。会場で食べ物を買う際も、事前にアプリから注文してハーフタイム中に取りに行く、ということができるようになりました。

吉川

まさに“フリクションレス”ですね。

皆川

この動きに関わっているのがマイアミ市です。マイアミ市では本拠地のアメリカン・エアラインズ・アリーナでモバイル決済ができるようになったことをきっかけに、タクシーの決済などさまざまなことに同じアプリを使ってモバイルで決済できるようになりました。
データ分析も盛んに行われています。グッズへの注文が何故かフィリンピンから多数入っていることが分かり、原因を調べたところ、ヒートの監督のお母さんがフィリピン人でありることからフィリピン人が多く応援していることが分かりました。そこで、ECサイトで監督のグッズを積極的に売るようにしたら、海を超えてコミュニティの熱量が上がっていきました。

このケースではチーム、アリーナ、チケッティングの3つの異なる組織を、ひとつのアプリに集約した訳です。使ったテクノロジーが高度というよりは、組織の壁を取っ払ったことが素晴らしい訳ですが。

村山

アメリカでは、スポーツ観戦の際に売店の人が座席まで運んでくれるというのが普通になっていますよね。日本はチケッティングひとつとっても、遅れていると思います。

皆川

そうですね。先ほどのアプリを使うと、年間シートを持っている人が観にいけない試合があったときに、その試合の席をリセールするといったこともできます。

吉川

日本では問題になりがちなチケットのリセールも、そういう話であれば素晴らしいことに思いますね。

村山

同じプラットフォーム上で売買できるから変に値段が上がったりもしませんしね。

BUZZを計画するのはナンセンス?

吉川

熱量のお話がありましたが、熱量とか熱狂ということを考える場合に、ブランドは今後何をすべきなのかを考えていきたいと思います。アスミック・エースが配給している映画『カメラを止めるな!』(以下、カメ止め)が大きな話題になっているので、村山さんにそのお話をしていただけたらと思います。

村山

カメ止めは6月末に2館で上映をスタートしましたが、11月の今の時点で222館まで広がっています。興行収入は30億円を超えました。

吉川

熱量が広がっていった訳ですよね。

村山

まず監督と演者、プロデューサーの熱量が凄いですね。更にコンテンツが強いことで、熱量がドリブンされていった。最大で300館近くで上映しました。「館アベ」という一館当たりの収益のアベレージを示す言葉があるんですが、これが非常に高いんです。それが評価されて多くの映画館に広がったし、まだしばらく興行を続けようと思っています。
インフルエンサーの方の影響も大きかったです。まだ全国公開をしていない、7月21日にシャープ社の公式Twitterが、3行の感想ツイートをしてくれました。そのツイートが盛り上がり、更に10人くらいの演者が次々にそこに絡んでいったことで、どんどん盛り上がりが増していきました。シャープのフォロワーは47万人いて、多くの人は“中の人”である山本さんのファンなんです。山本さんが面白いと言ってくれたお陰で、多くのファンの方に足を運んでいただいたと思っています。

映画の宣伝は、過去のやり方が通用しなくなってきている。同じことをやっても売れなくなってきました。今年、インド映画の『バーフバリ』が大ヒットしたのですが、絶叫上映という大声を出しながら鑑賞するスタイルとの組み合わせがウケたんです。好きな人は8~9回観に行っています。
このように関係者の熱量がヒットを生み出すケースが急激に増えてきました。通常の宣伝ではない、違ったアプローチをしかけなくてはいけない状況になっています。

皆川

先日飛行機に乗っているときに機内で観たんですけど、何回も観たくなりましたし、大画面でも観たいと思いました。

吉川

コミュニティの熱量をどれだけ保ち続けるかも大事ですよね。SNSの時代になって誰でも意見が言えるようになった分、「誰が言っているか」が凄く気にされるようになってきています。

村山

シャープの山本さんには、ファンからの信頼の熱量がありますよね。山本さんがツイートしているなら観に行こう、となっていたと思います。

吉川

簡単に発信できるから、本気で言っているかどうか肌感覚で分かるようになっているかもしれないですね。

皆川

少し前のソーシャルのプランニングは「こうきたらこうしよう」みたいな具合にしっかり考えていました。でもそういう流れに対して、デジタルネイティブの世代は、「これはあらかじめ決まっていたな」「本気じゃないかもしれないな」と分かるようになってしまいましたよね。

村山

そうなんですよね。映画の宣伝部は「大ヒット上映中」と全ての映画に付けたがるので、やめろよと言ってるんです(笑)。テクノロジーの時代は全部可視化されるので、大ヒットじゃないことが分かれば冷めてしまいます。今はそういう時代ではない。

吉川

先ほどの『カメ止め』のお話では、役者と観客という人間同士がフリクションレスでぶつかると熱量が出る、ということがよく分かりましたね。

村山

はい。ただ、これをブランドサイドで設計しようとすると難しいですよね。

吉川

設計するとか、バズを計画するっていうのがどんどんナンセンスになってきているかもしれませんね。起きてもいないバズを見込む、といった考え方自体を変えたほうがいいんじゃないかと思っています。

皆川

コミュニケーションはフローだ、と考えるようになりました。コミュニケーションはどんどん変わっていくのが、例えば流れを見て盛り下がった時に火に油を注ぐのは大事だと思います。でもインタラクションを予想したりあらかじめ期待するのは違う。もし誰かが何かを言ってくれたら、それに乗っかればいい、ということだと思います。

村山

反応はポジティブなワードじゃなくてもいいですよね。従来はポジティブなワードだけを見ていましたが、例えば『カメ止め』では原作の盗用が話題になりました。ネガティブなツイートが一時的に凄く増えましたが、結果としてそれでリーチが広がったんです。反射神経が凄く大事ですね。

皆川

反射神経は大事ですよね。反応があったら、何も考えないですぐ返すようにしています。「問題があったら会社がなんとかしてくれるだろう」くらいの気持ちで(笑)。
とある市議会議員がのど飴をなめていて注意されたことがニュースになりました。これに対しては皆さんいろいろ意見があると思いますが、それはそれとして、その時に議員がなめていたのど飴の会社の社長が素早く目を付け、「タブレットの商品もあって、それならなめていても気づきませんよ」というオンライン動画を数日後にアップしたんです。このスピードで動けるのは凄いですよね。

吉川

『カメ止め』も、原作の盗用が騒がれたときに、監督が真摯な対応をしたことでそれがその後の更なる盛り上がりに繋がった印象があります。

村山

そうですね。それまではネガティブが強かったですが、監督の対応に対して反応の総量が凄く上がり、その話題をいろいろなニュースサイトが取り上げて、それに対して応援の声がどんどん増えていってネガティブが減っていきました。

PDCAだけでなく、OODAな対応力も

吉川

村山さんは、リアルタイムに生活者の反応をご覧になっていますよね。生活者とブランドの間柄って、以前は売り上げだけでしたけど、SNSをみれば反応がフリクションレスで分かりますよね。

村山

ツイートと総量を意識していますね。ポジネガも気にしますが、それよりもとにかく総量です。この作品は興行がどのくらいいきそうだ、というPDCAを考えたりもするのですが、だいたい外れる。あくまで参考ですね。今は、やってみてからどうレスポンスを増やすかに注力しています。

皆川

PDCAのサイクルではなく、OODA(ウーダ)ループで対応していくのが良いのではないかと考えています。OODAはObserve、Orient、Decide、Actの略です。PDCAの場合、例えばプランを「いいねの数を増やす」に設定すると、目的のために生活者に媚びるようになってしまうんですよね。それは本質的ではないし、ツイートの総量は増えません。
OODAでは何がどう変わっているか観察して、何に由来しているかを分析して納得し、判断し、実行するという流れです。PDCAはサイクルなので順番が決まっていますが、OODAはループなので次にどれにいっても構いません。

村山

音楽のライブなども含め、エンタテインメントはオブザーブしやすいですよね。ただOODAをやろうとすると、権限を現場に委譲しないといけないですよね。日本の組織だとそれが難しい。

皆川

そうなんですよ。Pがないから、事前に説明して権限を委譲してもらっておく、といったことができないんです。感覚的にオッケーできる人が上司ならいいんですが。

村山

PDCAとOODAをハイブリッドでやればいいのかもしれませんね。ガチガチに予算を決めてPDCAをやるのは予算の8割で、2割をOODAにして権限委譲しておこう、といったように。

吉川

話が尽きませんが、最後に一言コメントをお願いします。

村山

シャープの山本さんの場合、社内でも「山本さんが自由にツイートするのは仕方ない」となっていると思うんですね。OODAの時代になって、これからは「誰が言っているか」がますます大事になっていきます。その「誰が」になれるかが大事だし、企業はそういう人を社内につくっていけるかが大事になっていくと思います。

皆川

ソーシャルの時代になるとコンテンツドリブンになります。それを証明するためにはデータを見ればいい。でもデータに引っ張られ過ぎてしまうと、過去のことばかり見るようになってしまいます。コンテンツドリブンをデータで証明していく、データプルーブンな時代になっていけばいいなと思いました。

  • 村山 直樹
    村山 直樹
    ジュピターテレコム 上席執行役員 メディア事業部門長 アスミック・エース 代表取締役会長

  • 博報堂 グローバルMD推進局 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 複属研究員

  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長