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2018年10月4日、5日の2日間にわたって開催されたマーケティングとテクロノジーに関するカンファレンス「ad:tech tokyo 2018」。本稿では、ブルーカレント・ジャパンの本田哲也氏をモデレーターに、デルフィスの土橋代幸氏、スマートニュースの山崎佑介氏、そして博報堂DYメディアパートナーズの藤本良信が登壇した公式セッション「テレビ視聴率のリアルタイムデータ化から生まれる新施策」をレポートします。(以下、敬称略)

 

――「テレビ視聴率“見える化”元年」パズルの最後のピースが埋まるとき

本田:「テレビ視聴率」というテーマが、アドテックでフォーカスされるようになったことは、とても感慨深いです。今、テレビの効果を測定するさまざまな指標が急速に登場する一方で、視聴率がデータ化されて可視化されていくということは実際にどういうことなのか。今回、お三方との事前の打ち合わせでも「去年、今年あたりが『視聴率見える化元年』」と話していました。
テレビとスマホなどのマルチデバイスでコンテンツも多様な種類に接触する時代、施策を打ったときにデータをどう掛け合わせるかも大きなポイントになりますが、広告会社からはテレビ視聴データを可視化するソリューションが登場しています。また、視聴率データの質を上げていくサービスや、視聴率自体を可視化するサービスが続々生まれ、結線テレビのデータ、視聴データの提供が可能になり、エリア拡大も進んでいてかなり出そろった感があります。
まずは、広告主として長くテレビCMを扱ってこられた土橋さん、いかがですか?

土橋:テレビ以外のメディア環境の変化・多様化を含めて、宣伝担当者はとても大変な時代になっていると思います。自分たちのパフォーマンスの説明責任がすごく大きいのに、いちばんコストをかけているテレビCMはこれまでまったくデータが足りず、ブラックボックスになっていました。それが今、こうして急速に充実してきて、残されたパズルのピースがやっと埋まるという感じですね。

本田:では藤本さんから、「Atma」も含めてどういったことが可能になっているのか、ご説明いただけますか?

藤本:Atmaは結線テレビを使って100万台規模のテレビ実視聴ログデータを活用し、テレビCM効果を最大化する博報堂DYメディアパートナーズのソリューションです。今、2020年までに1000万台以上になると予想されている結線テレビによって集まる「テレビの操作ログ」とDMPのデータ、そしてネット側のデータを組み合わせると、テレビ・PC・スマホのデータを横断した分析が可能になります。

従来、クライアントには「テレビとデジタルでそれぞれ、どの年齢層に何回広告接触できるか」を知りたいという課題がありました。これが明らかになるので、たとえば「20歳以下だとテレビではリーチできていないからデジタルで補完しよう」といった形で、接触回数ベースでテレビとデジタルの最適化ができるようになります。

博報堂DYメディアパートナーズ データビジネス開発局 藤本良信

また、テレビとデジタルを掛け合わせると、CMからWebサイトへの来訪、さらに位置情報の併用でリアル店舗への来訪も検出できます。サイトや店舗来訪などの“行動”をとった人のテレビ視聴データを、実際のテレビCMのプランニングに活かせる可能性もあります。
あるブランドサイトに来た人がよく視聴する番組をランキング化して参考にするとか、店舗来訪した人が視聴したテレビ番組を参考に番組を評価して、プランニングできる。つまり行動ベースのテレビ視聴分析と活用が可能になっている、といえます。

本田:改めてうかがうと、予想以上に可視化が進んでいますね。先ほど土橋さんがおっしゃったように、従来テレビCMはブラックボックスといわれてきましたが、ほかの施策とのつながりがどんどん見えるようになっている。

土橋:2020年の東京五輪を目がけてさらにスマートテレビ化が進むと、すぐに結線化率は50%を超えるでしょう。そうすると、5割の人の実データがあるわけなので、すごく迫力のあるものになっていくと期待できます。これまで「取引に使われるデータがどれだけ正しいか/信憑性があるか」が問われていて、自動車だとショールーム来訪から購入までが数カ月単位となり、最初の打ち手からどう購入に至ったのかを分析するのはとても難しいことでした。それを明らかにするにも、先ほどお話しした“ピースが埋まる”ことが後押しになると思います。

本田:そうですね。分析結果を、さらにプランニングに生かせるのも大きな変化だと思います。

藤本:その点でも、テレビCM接触頻度と購買の関係を可視化することで、最適な接触頻度を検出することができます。100万台規模で分析することで、既存商品と新商品ではリフトの仕方が違うといったこともわかってきました。

――日々変化する広告主企業のニーズに応える柔軟なデータ提供が必要

本田:山崎さんはマーケターでありながら、個人でYouTuberとしても活動されているとのことですが、デジタル出身で現業がアプリのマーケティングなので、いわゆるトラディショナル企業のテレビCM活用とはかなり違う視点を持たれていると思います。結線テレビの普及や、テレビCMに関するデータが増えることに関してどう捉えていますか?

山崎:はい、歌を歌っていまして。YouTubeでどうやって検索優位になったり、人気動画の関連コンテンツに出たりという部分にはマーケティングの仕事にも共通点があると感じています。
アプリのマーケティングはリアルタイムでの判断が必要なので、プランニングに活用するというよりも、全部自動化してつながってほしいというニーズがあります。データはあるだけ嬉しいですが、データの種類も量もありすぎて、ある種“データに溺れる”ようなケースもあると思います。
たとえば「CTRが10%改善した」ことだけを捉えて、それを成功として本当に価値があるかはKPIをきちんと設定しないとわかりません。とはいえ、テレビとデジタルを比べるときにデータの少ない方に合わせざるを得なくなります。施策の精度を上げ、最適化するにはデータの種類と量はやはり必要だと思います。

スマートニュース マーケティング マネージャー 山崎佑介氏

土橋:山崎さんの話は、広告主サイドのニーズとして象徴的だと思いますね。視聴率は昔から、商取引の指標として使われてきましたが、それよりマーケティングデータとしてのニーズが高いとすると、具体的なニーズは日々変化するので、KPIも大幅に変わります。そういった意味では視聴率の新しいデータをつくるにも柔軟性がすごく求められますね。大変正確だが重くて変えられないデータより、速くて柔軟性があって縦にも横にも切れるデータをどんどん提供することが、広告会社サイドとしては大事になります。

本田:データで身動きが取れない、というのは本末転倒ですね。使えるデータが充実するのはいいことですが、料理の仕方で精度をいかに高められるかが変わるので、増えればいいというものではなく道半ばで、課題も多い。藤本さん、どういった課題があるとお考えですか?

藤本:課題としていちばん大きいのは、調査パネルデータは個人がわかっていますが、結線テレビのデータは個人がわからないこと。つまり実際にそのテレビを家族の誰が見ているかが推定に留まってしまうことです。となると、やはり調査パネルデータと結線テレビデータを最適に組み合わせたうえで判断する必要があります。その組み合わせがまさに課題になりますね。
土橋さんがご指摘されたように、広告主がマーケティングデータとして活用するならニーズはその都度変わるので、目的に応じてメインにするのを調査データか結線テレビデータかといった形で、我々としては柔軟に提案していく考えです。

本田:ケースバイケースということですね。山崎さんはいかがですか?

山崎:アプリのマーケティングで感じる課題は、「結果」のデータは取りやすく、リアルタイムデータが取りにくい、ということです。たとえば視聴率が高い番組で、アプリのダウンロード数が伸びても、前の番組から引き続き観ていた人が多かったのかもしれず、番組に何を期待し広告の時間をどう過ごしているかは想像でしかないのが現状です。
特にアプリのダウンロードを促すCMだと、そもそもスマホが手元にないと明日まで覚えていてダウンロードされることはほぼないはずなので、今すぐ行動してもらうには視聴態度や感情をマーケティングに組み込みたいところです。

本田:なるほど。そのあたりはマーケターの推察になってしまっていますが、それをもとに実際PDCAを回していくと、確度が上がっていくということはありますか?

山崎:それは、ありますね。傾向ははっきり出ます。

本田:それこそマーケターの腕の見せ所ですね。土橋さん、直近の課題についていかがですか?

土橋:今のお話にも関連しますが、視聴率とは「番組」の視聴率であって、CMではないですよね。番組の最初か最後か、CMの入れ位置がわからないですし、それによる効果検証もできない。欧米だと「C+」「C7」といったCMの視聴率が出るので、ここは広告主サイドとしては何とかしてほしいところです。
もうひとつは、JAAのデジタルメディア委員会で取り組み中の、デジタルとテレビの指標をそろえていくことです。基本的に両方出せないとか、比べられないという状況自体に、多くの企業が苦労している。なので、テレビ視聴率を議論し活用の幅を広げるには、共通指標の整備は必ず必要になります。

――「デジタルで可能なことをマスでどう実現するか」という発想

本田:では、実際にテレビCMとデジタルを横断的に活用してダウンロード数を伸ばしているスマートニュースの事例を山崎さんからお話しいただきます。

山崎:スマートニュースでは「統合マーケティング」をキーワードに、マスとデジタルを活用してプロダクトも一緒に開発するところが当社の特徴です。クーポンの利用データと、CM出稿時にどの企業・クーポンのリアクションが高いのかというデータ、あるいはデジタル媒体でのクリックやコンバージョン、定着率が高いのかというデータを横断して、プロダクトの方向性も出稿の方向性も決めています。
CMもデジタル広告のように、何を重視するかのマトリクスを作成しています。またダウンロード以外に、最終的な流入につながる指標の掛け算を考えています。視聴率が高い番組に出稿したときは、やはり検索が伸びますね。ディスプレイ広告がテレビCM出稿と連動してどのくらい伸びたか、動画広告はどうかということも加味して評価しています。

土橋:なるほど。ダウンロードという確かな指標があるので、すごくリアルにわかりますね。自動車だとエリアによっても反応が違いますが、アプリだとどうですか?

山崎:クーポン訴求の場合は、地域差というより該当企業の店舗が多いエリアと少ないエリアで、結果が大きく変わりましたね。

藤本:マトリクスに大切なポイントがたくさん入っているんですね。結局、スマートニュースはリーチだけではテレビCMを評価できないのだと感じました。また、直接的なダウンロード効率にさらにサーチやディスプレイやビデオを掛け合わせているのは、非常に先進的です。

山崎:でも、ニュースアプリなのでニュース番組に出せば視聴者との親和性がいいと思っていたのですが、結果はまったくで試行錯誤も多かったです。当社なりに考え、テレビCMとデジタルでできること・できないことをまとめたりもしました。入稿の仕組みも枠もスパンも違いますし、デジタルはリアルタイム入札なので瞬間的にマッチングを判断しているわけです。テレビでも番組と企業は画一的にマッチングするわけではないので、スマートニュースにとって相性のいい番組を安く買うこともできるのではないか、と。
配信のほうでは、デジタルだと類似拡張配信といった手法でターゲットを的確に拡大できるので、現ユーザーを分析してその特徴にマッチする人だけを対象にしています。なので、初速のロスは少ないですね。リタゲも使っています。

本田:見込みの大きいところに狙って出稿するわけですね。

山崎:そうですね。デジタルでは今「何を基準に最適化するのか」が大きなポイントになっていると考えています。ダウンロード、あるいは課金ではなく、実は「翌日ログイン」や定着率といったもっと奥のタイミングで最適化して、配信まで戻す……というのがアプリの成長を考えるといちばんいいのではないかなと考えています。

――環境や指標が整った今、運用体制やチームづくりが次の課題に

土橋:広告主企業でこういう考え方をする人が出てきているのは、大きな変化の兆しを感じますね。デジタルの発想でマスを捉えるというのは、こういうことなんでしょう。今までは「テレビだから仕方ない」で片付けてしまっていましたが、もっとフラットに、デジタルでできることをマスでどう実現できるのかという視点が必要だと考えさせられます。

デルフィス 常務取締役 土橋代幸氏

山崎:デジタルにも得意・不得意があるので、しっかり整理して補完していくことが大事なのだと感じています。よくデジタル偏重になるとターゲティング精度は上がるのに、見込み顧客しか獲得できず、縮小最適になりがちです。プロダクトとしての広がりも小さくなる。テレビでは精緻なターゲティングが難しく、F2層が中心だが家族で観ているようだということなら、世代を問わず楽しめるコンテンツをつくってデジタルで補完することもできます。

本田:今の指摘はとても重要ですね。マーケティングは市場創造なので、最適化・効率化の話とは別に、未来の顧客にどう気付きを与えて振り向いてもらえるかという観点は欠かせません。ファネルの上部にアプローチすることを忘れてはいけないですね。最後に、今後の“積み残し”課題をうかがえますか?

山崎:できるだけ出稿されている状況を確認したいですね。テレビを観てそのときの家族の様子や感情をみたりもしています。逆にデジタルだととても見切れないですし、アドフラウドの問題もあるので、そこが課題ですね。今後の展望は、スマートニュースのテレビCM効果検証の結果を、番組のアップデートにも使っていただけるのではと思っています。番組構成内でのCMの空白、いわゆる“CMまたぎ”をどうつくるかを一緒に考えられるとすごく嬉しいです。

藤本:ここまでお話してきたように、テレビ視聴データが可視化され、さらにリアルタイムのデータ化も進んでいますが、裏を返せばまだその段階です。データが見えてくると、やりたいことが出てくるので、そうした流れは当社にとってはチャンスです。引き続きソリューション開発などを進めながら、各企業それぞれのニーズを加味していければと思います。

土橋:元・JAA電波委員長としては、やはり電波の価値を向上させたいですね。2020年には5Gの商用開始が予定されていますが、実は残された時間はすごく少ない。今日議論したデータ環境や指標の進化に比べて、実際には広告会社、テレビ局、そして広告主企業の三者間の運用がついていけていません。デジタルを参考にし、本当に横断的に活用するなら、圧倒的にPDCAを回せるようなフレキシブルな運用体制に皆で変えていかないと、どんなに環境や指標が整備されても意味がありません。道具や技術はそろったから、一緒に変えていきたいと思います。

本田:皆さんありがとうございました。土橋さんの言葉どおり「最後のピース」が埋まって今がスタートラインだと実感しました。テレビ局やデジタルメディア、広告会社、広告主企業の中にもデジタルマーケティング部や宣伝部が混在していますが、そうした異なる立場の面々が既存のやり方を刷新してチームワークを発揮していくタイミングなのだろうと思いました。ぜひ、今日の話をそれぞれの立場で活かしていただけたらと思います。

ブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長 本田哲也

プロフィール

本田 哲也
ブルーカレント・ジャパン株式会社
代表取締役社長

「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。99年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、ブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(田端信太郎氏との共著、ディスカヴァー刊)などの著作、国内外での講演実績多数。2015年の『PRWeek Awards』にて「PR Professional of the Year」を受賞。「カンヌライオンズ2017」PR部門審査員。

土橋 代幸
株式会社デルフィス
常務取締役

1984年4月、トヨタ自動車株式会社入社。財務部、宣伝部を経て2013年4月株式会社トヨタマーケティングジャパン取締役、2018年6月より現職。日本アドバタイザーズ協会(JAA)顧問、全日本シーエム放送連盟(ACC)新事業検討委員長。

山崎 佑介
スマートニュース株式会社
マーケティング マネージャー

1989年愛知県生まれ、2013年京都大学卒業。サイバーエージェントを経て現職。学生時代から音楽活動を続けYouTuberとしても活躍。累計800万再生を自ら作るなかで動画マーケティングを学ぶ。現職ではデジタルマーケティングからテレビCM開発まで幅広いマーケティング業務に尽力。

藤本 良信
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
データビジネス開発局 局長代理

1999年より、メディアプラニング業務・プラニングシステム開発業務に従事。 その後、新しいテレビプラットフォームの研究・開発、動画ビジネス開発、メディアプラニング、メディア価値証明、テクノロジー進展のビジネス活用などの業務に幅広く携わる。 現在は、大規模視聴ログを活用したソリューション「Atma」の開発責任者を担う。

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