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チームクリエイティビティ2018【アドテック東京2018レポート】
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チームクリエイティビティ2018【アドテック東京2018レポート】

10月4日、5日の2日間にわたり、東京国際フォーラムにて国内最大のマーケティングとテクノロジーに関するカンファレンス「ad:tech2018(アドテック東京)」が開催されました。10年目となる今年も、各界からキーパーソンたちが集まり、刺激的な議論を展開。

本セッションでは、株式会社Kaizen Platformの須藤憲司氏がモデレーターとなり、株式会社クー・マーケティング・カンパニーの音部大輔氏、博報堂ケトル/博報堂の木村健太郎が、マーケティングを成功に導くためのチームづくりについて語り合いました。(以下敬称略)

■不確実な時代に対応できるチームとは? 欠かせない異ジャンル同士の化学反応

須藤

このアドテックも10年目ということですが、10年前と現在では当然広告業界も含むビジネス全体が大きく変化しています。VUCA(ブーカ)の時代と言われるように、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(あいまい性)などが高まっている。それに対抗するために必要な「チーム」について、今日は経験豊富なお2人にうかがっていきます。まずは、この10年の変化をお2人はどう感じていますか?

木村

肌感覚でいうと、クライアントからのオーダーが「CMやキャンペーンをつくってください」だったのが、いまは「何をすればいいか一緒に考えてください」になっている。その背景は、取り組む課題のスパンが長期的になってきたというのもあるし、クライアントと我々が走りながら考えるというプロセス型が広がってきたのもある。でも一番大きいのはやはり、この10年強で広告の概念自体が変わったことですね。かつては処方できるのが4種類の薬――つまり4媒体しか存在しなかったのが、いまは多様な処方箋が存在している状態です。さまざまなメディアができて顧客接点も増大し、ブランドだけではなくユーザーも発信者となっていき、2000年代後半にはデジタルテクノロジーによってマーケティングの手法が拡大し、そしてその目的も拡大。さらに、ニュースだと思ったらPRだったり、映画だと思ったらブランデッドコンテンツだったりと、情報の種類も広がってきている。ここ数年に関しては特に、広告の発想のソースがコピーとかアートだけではなく、データやテクノロジーから生まれるようにもなってきました。

博報堂ケトル/博報堂 木村健太郎
音部

木村さんの言う“薬の種類”が増えた場合の対応方法はいくつかあって、ひとつは「新しい薬を試してみましょう」というもの。でも導入はしてみたもののほとんど使えませんということもありうる。もうひとつは、どんな薬や手術方法が開発されようと、対象である人間そのものへの洞察をしっかりやりましょうということ。

須藤

確かに生活者の変化というより世の中の方の変化が大きい気がしますね。

木村

はい。でもその話にあえて突っ込みますと、そうはいっても僕らはもう携帯やSNSのない生活には戻れないでしょうし、テクノロジーやメディアの進化と同時に、実は我々生活者も大きく変わっていると考えるべきだと思っています。確かに人間の普遍的な本性、根本のところを追求することはとても重要だけど、それ自体がずっと全く不変であるとは考えない方がいいと思う。いままでになかった新しいエモーション、欲求や動機が出てきて、それを発見したりということはあるわけですから。

音部

それはおっしゃる通りで、いまのライフスタイルにアジャストしてくのは当然だと思います。一方で、2000年前の物語にいまの僕らが心を動かされるということもあって、人間のもっとも本質的な部分というのはあまり変わっていないとも言える。両方が言えるんだと思います。

須藤

また、環境が変わってくると扱う問題も広がったり深まったりするわけですが、それに対してチームはどう応じていけるでしょうか。チームの中にいる人のケーパビリティや特性も相当変わってきていると感じますが。

音部

物事がどんどん複雑化したことで、チームとしてもいろんな人と働かなくてはならなくなりました。20年前ならアカウント一人、クリエイティブチーム一つで4媒体に対応できましたが、いまはそんなマーケティングはできませんね。計測がうまい人、配信がうまい人……と、役割や職種ごとにそれらを得意とする人や会社が出てきて、資本関係もなければ同じ会社でもない人たちとくっついたり離れたりしながら働くようになっている。

木村

僕は「座組のクリエイティビティ」という言い方をするんだけど、異なる職種の人たちとの化学反応をいかに起こすかが大事だと思っていて。プログラマーや建築家、あるいは科学者と組んでみるとか。最初の座組のところからフレキシビリティのあるスタッフィングを行うことで、アイデアの可能性をぐっと広げていくことが大事だと思うんです。仲間のCDがよく言うチームビルディングに使う言葉に、アサイメントではなくフィーチャリングという言葉があります。音楽におけるセッションでは、いろんな楽器の人と組んでみて、いまいち合わなければやめてみたり、まったく別の人を試しに呼んでみたりする。そういう感じの緩やかなチーム構成、機動性の部分がいま一番キーだと思っています。

須藤

なるほど。確かにその分野の方法論をわかっている人じゃないと出せない解答というのはありますからね。そういう風に、複雑化する問題に対し、共通の目的に向かって多様な人がチームを組む場合、コミュニケーションにおいてはどんな工夫が必要でしょうか。

木村

それって、いままさに広告会社が直面している課題なのではないでしょうか。かつては一番偉い立場にクリエイティブディレクターがいて、「じゃあサイトつくっといて」というように上から指示をしていたわけですが、10年くらい前から、クリエイティブとPR、あるいはデジタルがいかに融合するかが問われ始めた。
そのうちに、いわゆるコピーライターやCMプラナーというクリエイティブの職種出身ではないクリエイティブディレクターも出てくるようになって、意見を戦わせて勝ったり負けたりするうちに、相手の領域に歩み寄って、互いに学ばなきゃという空気も出てきた。そうやって一緒にやって成果が出せたら、じゃあ次もやろうという話になる。その健全な衝突のようなものが、いま一番大事なんじゃないかと思うんです。
そのうえでこれからの課題は、広告クリエイティブディレクターが、データアナリストやエンジニアといかに化学反応を起こすか。たとえば、長年の経験値でやってきたディレクションがデータに負ける日が来るかもしれません。でもそこで初めて、もう一つ上のレベルでの統合……リスペクトをもって、互いのいいところを活かし合える新しいタイプのチームのリーダーが出てくるんじゃないかと思います。

■鍵となるのは5×1のチームのつくり方と、機能ではなく「理念」でつながるネットワークのあり方

音部

昔所属していたヨーロッパ系の会社で行っていたラーニングがとても面白かった。5人対5人のチームでサバイバルゲームを行うのですが、同じ5人でも、攻撃の仕方が1×5と、5×1のチームが出てくるんです。1×5だと各自バラバラに動いて攻撃しますが、5×1だと敵1人に対して5人が力を合わせて攻撃する。で、この5×1のチームをつくるためには、共通言語をもって横につながらないといけないんです。だから最初の30秒くらいのブリーフィングタイムに何をするかというと、1×5のチームが「エイエイオー」なんてやっている間に、5×1のチームでは、相手側との間にある障害物にそれぞれA、B、C…と名前をつけていく。「A2、B0、C3」という風に、互いに各障害物の裏に何人敵が隠れているかだけを言っていくことにする。それが聞こえたら順に叩いていけばいいわけです。戦闘中は会話なんてできませんから、そうやって共通言語をつくり、目的を明確にすることこそがチームマネジメントなんですね。できればそこに大義もあった方がいい。お金のために動くとなるとちょっと残念な感じもするので。その3つがちゃんと揃っていれば、5×1のチームはつくれるはずなんです。

木村

それは面白いですね。僕からは、法人としてのチームという観点からどう化学反応を起こすかについてお話してもいいですか。
博報堂DYホールディングスの傘下に、kyuというグローバルの企業をネットワークする戦略事業組織があるんですが、これをコレクティブ(共同体)という言い方で表現しているんです。広告会社だと通常似たような機能を持つエージェンシーをクライアント別、機能別、マネタイズのフェーズ別にくくっていき、ホールディングスカンパニーとなるわけですが、ここでは「クリエイティビティで社会と経済を前進させる」という理念でつながることにこだわっている。さらに、トップマネジメントやイノベーション、行動心理学、エクスペリエンスなど各社スペシャリティを持っていて、まるで全員異なるスポーツの選手が集まったチームのようになっているんです。資本でつながるホールディングスとは違う、新しいグループ経営の在り方ですよね。

もう一つは手前味噌ですが、博報堂ケトルの渋谷サテライトオフィスが完成しました。シェアオフィスとして使えるカフェの2階に、ケトルのほかに映像、音楽、デザイン、データを専門とする会社が入っていて、長屋のように鍵をかけずに一緒にいる。クライアント、エージェンシー、フリーランス問わずさまざまなスペシャリティを持つ人が集まるストリートオフィスという考え方で、また新しい化学反応が期待できるんじゃないかと考えています。

「TRAIN TRAIN TRAIN」は、博報堂ケトルを始めとするクリエイティブ関連の会社5社が集まり運営するストリートオフィス。
須藤

とても今どきなチームの在り方という感じがしますね。こういうチームアップでは、自分たちにない力をどう探し集めてくるかが重要になりますよね。

音部

そういった場合、セレンディピティ的に偶然素敵な出会いが訪れることもあるかと思いますが、決して頻繁にあることではない。それを探して歩くよりは、やっぱりいまのマーケティングプログラムのなかで、施策だったりパートナーだったりの役割、そこに必要なツール、広告会社、サービスについてちゃんと把握することが必要でしょうね。やるべきことは、自分のマーケティングプログラムのそれぞれのコンポーネントがどういう目的を持っているのか、何をもってそのパートは成功するのかをきちんと理解しておくこと。そうして初めて、効率のいい、互いの長所を活かせるチームづくりができるような気がします。

■チームの共通言語を明確化し、皆がワクワクできるブリーフィングを

須藤

では、いざそうしたドリームチームをつくったとして、実際にどう動かしていくのか。お2人なりの流儀、コツはありますか?

音部

僕がもう20年くらい使っているのがパーセプションフローモデルです。一見カスタマージャーニー風に見えますが、ここで中心に据えているのは消費者の「認識」です。自分が何を言いたいかではなく、消費者にどう認識してもらいたいかを事前に設計し、それに対してどうメッセージを当てていくかをデザインしている。いわゆるセンスのあるクリエイティブディレクターがすべて頭の中で決めていた時代もありましたが、それはいわば、名のある棟梁が設計図もなしにお宮を建てるようなものでした。でもいろんな専門家を動員しないといけなくなったいま、設計図=共通言語がなければ、新しいプレイヤー、新しいテクノロジーは非常に参画しにくい。こうして設計図化してあれば、どのパートにどの新しいプレイヤーを入れたらいいかもすぐにわかります。

クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏

これはそのままブリーフにも使えて、1~2段階目はA、2~3段階目はBのチームでやってね、という風に議論できて、効率もいいし効果も大きいんです。先ほどのサバイバルゲームを採用していた会社では、クリエイティブエージェンシー、マーケティングエージェンシー、リサーチ会社、PR会社……と6~7社が一堂に会し、ブリーフィングを一緒にやっていました。この紙1枚が、5×1のチームをつくるための共通言語の役割を果たしていることは実証済みです。

須藤

実は音部さんのクリエイティブブリーフは、木村さんが活用されているブリーフィングとも非常に似ているように感じました。木村さん、紹介していただけますか。

木村

これは、20年程前にいろんなメガエージェンシーやグローバルクライアントが使用していたブリーフを標準化した、ものすごくスタンダードなものです。メディアがすでに決まった状態でどういう表現を作るかのクリエイティブブリーフなので、whenとwhereが入っていませんが、ただ言いたいのは、20年経ったとしても結局5W1Hというのはちゃんと規定しましょうねということ。そこを共有しないまま走り出すと、みんなバラバラに違うことを考えてしまい、無駄な提案が増え、残業も増えてしまうということ(笑)。

音部

クリエイティブブリーフしかり、メディアのプランニングブリーフしかり、そもそもブリーフの目的とは「自分でできないことを、専門家にお願いして、自分の期待以上のことをやってもらう」ことですよね。だからクライアント側からお願いする場合、あれを使ってね、この人を使ってねと言うのもいいけど、それが得意なのはむしろクリエイティブの人たちなわけで。それよりも、消費者にどう思ってもらいたいかという部分をメインに据えて伝えていく必要がありますよね。

須藤

木村さんはこれまで、ブリーフィングを受ける側も出す側もどちらも経験されてきましたよね。

木村

はい。ストラテジックプランナーとしてどうしたら自分のブリーフでクリエイティブにわかってもらえるかも研究してきたし、クリエイターとしてはどうしたらもっと飛距離のあるジャンプができるブリーフを作ってもらえるかにおいても奮闘してきました。で、いまの音部さんの話はまさに本質をついていて、やっぱり一番大事なのは未来図だということ。シェア拡大とか売り上げアップとかを掲げてしまうこともまあありますが、そうではなくて、誰がどういう気持ちでどういう行動をとり、そのときにメディアがどうとらえてSNSや店頭ではどういう現象が起こって……といったイメージをいかにはっきりと解像度高く描け、なおかつそのイメージを共有できているかがすごく重要だと思う。そのとき生活者視点で未来図を語ることが一番大事で、次に大事なのは、マーケティングチャンスとしてどういうジャンプ台があるか。それは社会の変化でもインサイトでもいいですが、要はもらった側が「これならいけるね!」とワクワクしないとだめなんです。皆が集まって、ワクワクできて話が盛り上がるのがいいブリーフです。
ちなみにマーケティングチャンスに関してはフレキシブルに変えていっていいと思う。最初に規定することはしつつも、残りはなるべくフレキシブルにし、違うと思ったり、もっといいチャンスが見つかったらまた書き換える。そこを何度繰り返せるか。それによってクオリティを高めていけるかがポイントだと僕は考えます。

音部

20年前はクリエイティブワークを完了させてから出していましたが、一度出したらもう元には戻せませんでしたからね。でもいまは行ったり来たり、やり直しや修復が激しい頻度で発生する。いまの木村さんのお話にはすごく同意します。

須藤

目に見える数字やKPIを追うばかりに、「これ結局何のためにやってたんだっけ」という風に当初の目的を見失っていったり、獲得効率は上がっているけど本質的な変化が起こせていなかったり……あるいは、各パーツではうまくこなせているんだけど全部つながってみたらちぐはぐだったなどということを、僕自身いろいろなプロジェクトに入って感じてきました。

Kaizen Platform 須藤憲司氏

今日お2人の話を聞いてわかったのは、さまざまなデータがあってコレクションできたとすると、次に重要なのはそれらをインフォメーションにし、さらにインテリジェンスにするということ。まさにブリーフィングをインテリジェンスにする過程こそが大事なのだと納得しました。
以上となります。短い時間でしたが、ありがとうございました!

  • 博報堂ケトル / 博報堂 共同CEO、クリエイティブ怪獣
    学生時代にバックパッカーとして世界中を旅した経験から、「越境」が好き。1992年に博報堂入社後も、戦略、クリエイティブ、デジタル、PRを越境して構築するスタイルを確立し、2006年アイデアを沸かせて世界を沸騰させる「博報堂ケトル」を設立。2017年から博報堂のグローバルMD推進局局長を兼任し、アジア地域での共同チーフクリエイティブオフィサーとして、年間100日以上海外を飛び回っている。 これまでに8つのグランプリを含む様々な広告賞を受賞し、カンヌチタニウム部門など25回以上の審査員体験を持つ。2013年から4回カンヌライオンズ公式スピーカー。今年ADWEEK世界のクリエイティブ100人に選ばれる。共著に『ブレイクスルー ひらめきはロジックからうまれる』
  • 音部 大輔
    音部 大輔
    株式会社クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役
    株式会社クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役 新卒でP&G Far East Inc. マーケティング本部に入社。17年間の在籍中、ブランドマネジャー、マーケティングディレクターとしてアリエール、ファブリーズ、アテント、パンパースなどのブランドを担当し、市場創造やシェアの回復を実現。のちにUS本社チームでイノベーションの知識開発をマーケティングとして主導。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など多様な文化背景、製品分野で複数ブランド群を擁するブランドマネジメント、組織構築、人材育成を指揮。2018年1月より現職。博士(経営学 神戸大学)。 著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』
  • 須藤 憲司
    須藤 憲司
    株式会社Kaizen Platform Co-founder & CEO
    2003年に早稲田大学を卒業後、株式会社リクルートに入社、同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platform, Inc.を米国で創業。現在は日本、US、韓国、台湾の4拠点で事業を展開。WebサービスやモバイルのUI改善する「Kaizen Platform」、動画広告改善の「Kaizen Ad」、世界40ヶ国10000人以上のネット専門人材ネットワークからクラウド上で企業のデジタルマーケティングチームを提供する「Kaizen team for X」を提供。

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