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2017年5月30日に改正個人情報保護法が施行されて1年あまり。情報銀行やPDS(パーソナルデータストア)、データ取引所といった、データを流通、連携させるさまざまな取り組みが活発化してきた。

そんななか博報堂DYホールディングスも、2019年度の本格稼働を目標に、さまざまなデータを統合し、利活用できる「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム」の設立準備室を立ち上げ、実証実験の実施と検証を進めている。データを連携するときに必ず出てくるのが、個人情報とプライバシーの問題だ。個人情報保護法を順守しつつも、自由に活用できる、この相反する条件を両立するために博報堂DYホールディングスでは、「k-統計化&データフュージョン」という技術を開発し、特許も取得した。

「これによって、詳細なプロフィールを持った仮想個人データを生成することができる」と、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター室長の青木雅人氏は述べる。「仮想個人データを利用することで、完全に安全な形で、データを連携させることが可能になる」。

個人情報流出の事故があるたびに、情報セキュリティの強化が叫ばれているものの、この数カ月間だけでも、大規模な個人情報流出事故があとを絶たない。EUにおける、GDPRの施行に見られるように、データの安全性に関する意識がこれまでになく高まるなか、同社はデータの安全性とその利活用についてどのような考えを持っているのか。また、それを踏まえて、来年度にサービス開始予定の「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム」とは、どういったものになるのか。設立準備室リーダーでもある、青木氏に話を聞いた。
(※本記事は、DIGIDAYの転載記事です。)

◆ ◆ ◆

――まず、国内におけるデータ活用はどこまで進んでいるのでしょうか?

以前に比べると、企業のデータ活用への意識はだいぶ高まっているとは思います。しかし、そのメリットをしっかり見込んで取り組んでいる企業は、まだ少ないのではないでしょうか。

データ活用のメリットにはふたつあります。ひとつは“自社データ活用を中心とした業務の効率化・最適化”といった側面です。これに関しては、多くの企業がすでに理解し、活用を進めていると思います。その一方、もうひとつのメリット、“自社と社外のデータを連携し、新しいマーケットチャンスを見つけ、育てていくこと”、つまり需要創造型のデータ連携に関しては、まだ具体的に行動を起こせていない企業が多いというのが現状でしょう。

――なるほど。何が障壁になっているんでしょうか?

ひとつは、そもそもデータ連携に適したプラットフォームが存在していなかったことが挙げられます。もうひとつは、個人情報とプライバシーの問題ですね。データの統合は、個人の特定に繋がり、個人情報保護に抵触するリスクが出てしまう。需要創造型のデータ連携は、上記の2つの問題から進んでいなかったというのがいまの見立てです。

しかし、弊社で開発した技術、「k-統計化&データフュージョン」を介せば、個人の特定に繋がらない形でデータの統合が実現可能です。「k-統計化」技術により、似たような人を括るマイクロクラスタリングを行い、そのクラスターの特徴を保持した「仮想個人」を作り出す。そして、「仮想個人」のデータだけが外部に出ていく仕組みを作ることで、安全性と精度の両方をより高い水準で担保できます。

「k-統計化」の概念図

「k-統計化」の概念図

――「k-統計化」と「匿名加工情報」の違いは?

いわゆる匿名加工情報とは、港区赤坂に住んでいる人を東京都在住に、33歳の人を30代に、ある車種ブランドに乗っている人を300万円の国産車ユーザー、とデータの粒度を粗くするという手法です。いわば、モザイク写真のようなものです。対して「k-統計化」は、マイクロクラスタリングによって「仮想個人」を作り出し、その「仮想個人」を構成する複数個人のデータを、平均値などの統計量で表すため、ペルソナが鮮明な、「仮想個人」のデータを作り出すことが可能なのです。

アクチュアルのデータが数千万単位で取れる時代なのに、モザイク化しなければ使えないというのは、データ量は増えても、データの鮮明さが失われ、マーケティング利用しにくいという問題が残った状態でした。一定のデータ量を保持しつつ、データの鮮明さを残し、マーケティングに活用しやすいデータの在り方を検討した結果が、「k-統計化&データフュージョン」の開発なのです。

「k-統計化」とは仮想個人データを作りだす技術、「データフュージョン」はそれらを統合する技術ともいえます。我々の「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム」では、この仮想個人データを活用してデータ統合を行っていきます。データホルダーには「k-統計化」モジュールをお渡ししてご自身で仮想個人化していただき、そのデータを、データ・エクスチェンジ・プラットフォーム上で統合していただくという形をとります。

――データの統合はどのように行われるのでしょう?

「データフュージョン」という統計技術を使い、統合するデータ間の共通な変数を「のりしろ」にしてデータとデータの統合を行います。さまざまなデータ統合を行う際に、データ間の共通な変数、つまり「のりしろ」となるデータが少ないという問題に直面することがあります。この問題をクリアするために、我々はデータ同士を繋ぐ「のりしろ」を多く持つ「HUBデータ」の拡充を進めてきました。博報堂DYホールディングス各社が長年蓄積してきたデータを集約したプラットフォームである「生活者DMP」が、この「HUBデータ」の役割を担っています。

そのなかにはたとえば、数万人単位のパネル調査から得た購買データ、テレビ視聴データ、Web行動ログデータ、生活者の意識データなどが蓄積されています。

各種データは、「k-統計化」技術によって「仮想個人化」され、この「HUBデータ」をつなぎにして、安全に統合されるのです。万が一、流出したり、攻撃を受けたりしても、プライバシーの点では迷惑を被る人は決していません。そういった意味で、「完全に安心なデータ連携」といえます。

「データフュージョン」の概念図

「データフュージョン」の概念図

――なるほど、なかなか先駆的な取り組みですね。

はい。この背景にはやはり、博報堂グループの発想の原点である「生活者発想」という考え方が活かされています。

購買や消費といった側面だけ見ていても、新しい需要やマーケットチャンスに気づくことは難しい、生活者を360度多面的に捉えることではじめて、生活者を理解することができる。この「生活者発想」という思想こそが、我々のバックボーンを形成しているのです。

我々は、ビッグデータという言葉が注目されるずっと前から、こうした考え方を非常に大切にしています。だからこそ、データの統合の重要にもいち早く気づけたのだと思います。

――どのような戦略でスケールさせますか?

「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム」で統合されたデータを、博報堂DYホールディングス傘下の各事業会社と連携し、ソリューション化を図ることが重要だと考えています。統合したデータを提供するだけに留まらず、広告配信での活用、クライアントのプライベートDMPのリッチ化、CRMの高度化、リサーチデータとアクチュアルデータの統合など、いろいろな形でソリューション化してデータの利活用を促進していく予定です。

――では、最終的に御社が目指す世界は?

データ・エクスチェンジ・プラットフォームに関していうと、少し観念的な話になるのですが、SDGs(持続可能な開発目標)・社会課題の解決というキーワードを意識しています。

社会の課題をあらゆる人々の力を合わせて解決しようというこの流れは、企業に対しても、社会に役立つことを前提とした行動をしないならば、存在意義がないことを突き付けていると思います。逆にいえば、社会に役立つことをやれていれば、自ずと収益は上がるはずなんです。

これからは、企業連合で大きな社会課題を解決する取り組みを行う動きが進んでいくと思います。近い未来に、この流れと、データ連携による活用が重なってくるだろうし、実際、その兆しは見えはじめていると思います。

「データ連携で社会課題の解決も可能だ」と青木氏

「データ連携で社会課題の解決も可能だ」と青木氏

――その兆しについて、事例などあれば教えてください。

事例ではないのですが、ひとつの提案例として挙げると、ドラッグストアでセルフメディケーション関連商品が売れるようになり、生活者が自ら健康を意識した生活を実践すれば、中期的に医療費が下がるという予測ができます。

そのためには、KPIをドラッグストアのセルフメディケーション関連商品の売上増と設定し、そのためにデータ連携したデータを基に分析を行います。バイタルデータ、購買データ、位置情報データ、メディア接触データ、その背景にある意識データ、これらのデータを連携することで、セルフメディケーション関連商品の売り上げを増やす道筋を発見することが可能です。また、セルフメディケーション関連商品の購入者の医療費は非購入者に比べると少ないことが検証できれば、社会課題の解決に繋がる、さまざまなマーケティング活動が生まれていきます。

データ連携というと、データを繋げることそのものが目的になってしまいがちですが、効率化のためだけではなく、社会課題の解決までできるのが理想です。ひとつの企業の活動に留まらず、データ連携の社会実装をしていきたいですね。

――壮大な青写真ですね。

データ連携の目的を高い視点で持っています。技術をどうやって生かすのかが一番大事なので、その思いを共有できるクライアントを増やしていきたいです。安全なのはもちろん、そのうえできちんとした理念があると、参加のハードルはぐっと下がるはず。

生活者データの保護は必ず守らなければならないものです。その存在意義と技術、高い倫理を持つことが大事だと思います。データ連携を通じて社会の仕組みをどう変えていけるのか、そういった実績もどんどん積み重ねていきたいと思っています。

プロフィール

青木 雅人
株式会社博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長
兼)株式会社博報堂 研究開発局 局長

1989年 株式会社博報堂入社。生活者データベースの構築、社会テーマ・メディアに関する研究、マーケティング・テクノロジー開発を担当。マーケティング局、買物研究所、ショッパーリテールマーケティング局等を経て、2016年4月から現職。

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