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膨大なデータの中から消費者の嗜好を解き明かし、新規事業の立ち上げやサービス開発に役立てる動きが加速しています。その一方、日本企業が海外の進出先で、データ活用が思うようにはかどらず苦戦する事例もあるようです。今回は、博報堂データドリブンマーケティング局でグローバルデータマーケティンググループを統括する淮田哲哉(写真左)と、国内でイスラエル発のマーケティング・インテリジェンス企業として、マーケティングデータ統合・分析プラットフォーム「Datorama(デートラマ)」を提供するDatorama Japanでセールスおよびビジネス開発を手掛ける石戸亮氏(写真右)に、日本企業が海外でデータドリブンマーケティングを成功させるために必要な条件と対策について聞きました。

海外展開したいマーケターの頭を悩ませる、昨今のデータドリブンマーケティング事情

淮田:2011年頃を境にマーケティングを取り巻く環境が変わり始めました。デジタルメディアに限定されていたデータ活用が、各種オンラインサービスやリアルな店舗などでも活用され始めたからです。クライアントが把握すべきマーケティング領域の裾野が大きく広がり、データ活用に対する意識も高まってきています。

博報堂データドリブンマーケティング局 淮田哲哉

石戸:淮田さんがおっしゃる通り、ここ6〜7年でデータ活用が急速に進んでいる印象があります。Facebook、Instagram、Netflixといった有力なプラットフォームが登場するたびに、データ計測ツールの需要が増えているのはご承知だと思いますが、先日、マーケティングソリューション分野のカオスマップ(業界地図)を見て驚きました。2011年版の掲載社数はわずか150社程度だったのに、2017年版では約7000社にまで膨れ上がっていたからです。

淮田:そんなに!

石戸:そうなんです。驚きますよね。その一方で課題も浮き彫りになっています。マーケターは多種多様なデータを集められるようになった一方、さまざまなツールを使い分けて分析しなければならなくなってしまいました。

淮田:データ活用と一口に言っても、マーケターが扱うデータは、ファーストパーティーデータからサードパーティーデータまでいろいろですし、チャネルも多様化しています。確かにプラットフォームごとにツールを使い分けるのは大変です。

石戸:とくにデータのプリパレーション(準備)に苦心されている企業は多いですね。

淮田:私が担当するお客様の中にも同じような悩みを抱えている方が少なからず存在します。マーケティング領域を国内に限定したとしても、データを集め、可視化して、意思決定につなげるだけでも大変なのに、それを海外でやらなければならないわけですから。実際、多くのマーケティング責任者は頭を悩ませています。

石戸:淮田さんのクライアントは、海外の進出先でどのような点に苦労されていますか?

淮田:データの扱いに限って申し上げると、自社データ(ファーストパーティ-データ)の蓄積がないか未活用な状態にある、もしくはサードパーティーデータの精度とその解釈に苦心されるケースが多いですね。とくに海外に進出したばかりだと、サードパーティーデータやオンラインメディアの信憑性が計れなかったり、データの背景にある文脈を語りうる知見が乏しかったりするため、手持ちのデータと外部のデータをかけ合わせてみたものの、結果をどう解釈するべきかという段階で立ち止まってしまい、ご相談を受けることが少なくありません。また最近では「IoT」や「コネクテッド」文脈でのデータ活用とサービス開発に関する相談も増えてきています。

石戸:われわれの製品は、多様なデータを受け止めビジュアライズし、意思決定につなげるソリューションを提供するものですが、データを収集・分析するツールに関する分野で課題を感じられることはありますか?

淮田:ツールの選定を現地子会社に任せきりにしていたがために、本社とのデータ統合に苦労されているケースや、そもそもデータを集めて分析する基盤がなく、どのように整備していけばいいか分からないといった相談もあります。

石戸:なるほど。

淮田:われわれ広告会社の役割は、生活者起点でデータを活用してカスタマージャーニーからインサイトを探り、目的に適したマーケティング活動のエグゼキューション(実行)と改善の実施にあります。それは海外でも変わりません。異なる点があるとすれば、国内のマーケティングチームよりも小さな組織で日本と異なる環境に対応していかなければならない点です。ですから支援するわれわれにも、戦略からプランニング、ビジネスプランまでさまざまな機能が求められています。

人材もリソースも乏しいなか、いかに海外でのデータドリブンマーケティングを推進すべきか?

石戸:われわれがお客様から相談を受ける中で大切だなと感じるのは、マーケティング目標の明確化とデータのプリパレーションをしっかりと行うこと。そして増え続けるタッチポイントの把握と理解、社内外のデータやパートナーシップの連携です。逆に申し上げると海外で成功している日本企業は、大抵これらの課題をクリアしていると思います。

淮田:もう少し詳しくご見解を聞かせていただけますか?

石戸:はい。そもそも設定したマーケティング目標自体に無理はないのか、実現可能性を精査したうえで取り組まないと、成果が出しづらいのは言うまでもありませんが、問題はそれだけに留まりません。為替計算やプラットフォームごとに少しずつ異なる指標をひとつにまとめるといった、データ分析の前段階にあたるプリパレーションが無駄になってしまうと、それらが見えないコストとなってマーケティング予算を圧迫してしまいます。

淮田:確かに。

石戸:また中国を例に挙げれば、アリババやテンセントなど、日本とは異なる顔ぶれの大きなプレーヤーが覇を競っていますが、世界的に見ても生活者が触れるタッチポイントの数は増加の一途をたどっています。ですからそれぞれのプラットフォームやメディアの特性についての理解は欠かせません。また、セールス部門とマーケティング部門が異なるDMPやマーケティングオートメーションを利用することで生じるデータのサイロ化、パートナーシップの断絶も解消すべき課題です。

Datorama Japan 石戸亮氏

淮田:私の経験で申し上げると、中国市場に進出したある消費財ブランドでは、売上に占めるECの比率が、国内では1割から2割程度にも関わらず、中国では4割から5割に達しており、マーケティング予算の配分は日本とはまったく違います。またタッチポイントの増加という観点から申し上げれば、既に数億のIDデータを分析・活用し、オンライン、オフラインチャネルのデータ統合を実践されている日本企業も出始めています。その国や市場ごとに、生活者がよく使われているサービスは異なりますから、石戸さんがおっしゃる通り、ROIの視点からもメディアやプラットフォームの特性を理解しないといけません。

石戸:そうですね。

淮田:もうひとつ重要な点があります。それは経営とデータが分かるリーダーの存在です。COO(Chief Operating Officer)やCMO(Chief Marketing Officer)と呼ばれるポジションの方が推進役となり「マーケティングチームを改革していくんだ」という強い意志をお持ちだと、物事がスムーズに進みやすくなる印象があります。

石戸:確かにキーマンの存在は重要です。先進的な取り組みをされているグローバル企業には、CDO(Chief Digital Officer)という立場で活躍されている方もいらっしゃいますね。

淮田:ええ。とは言えどの企業にも経営とデータの両面に強い人材がいるわけではありません。その場合、組織で何が起きているのか、またデータがどのように蓄積され活用されているかを棚卸し、マーケティング組織づくりや仕組みづくりにつなげ施策を実行、マーケティング目標を達成するには事情に通じた「伴走者」が必要です。そこにわれわれのようなエグゼキューションを念頭に置いた支援を得意とする広告会社の存在意義があるのです。

小さな成功を積み重ね、データフレンドリーなカルチャーを構築しよう

石戸:これまでのお話を総括すると、デジタルドリブンマーケティングには、データフレンドリーな企業カルチャーや組織を育てることが大事だということになりそうですね。

淮田:そう思います。これはあくまでも極論ですが、もしデータドリブンなマーケティングに欠かせないデータが手元になかったとしても、Excelでデータをつくるところから始めてもいいわけです。そこからデータに慣れつつステップアップしていけばいい。もちろん課題に応じて正しい施策を実行すべきなのは言うまでもありませんが、予算や環境に応じて可能なことから始めるのが大事なのです。この点については国内も海外も違いはありません。

石戸:構造化データの蓄積はデジタルマーケティングの第一歩ですからね。複数の店舗を持つあるクライアントの例では、30年にわたってテレビCMとチラシで集客してきた販売員に、30万円分のGoogle AdWords広告予算を預けてデジタルでの集客で成功体験を積ませているそうです。データ活用の本質を理解している企業ほど、社を挙げてデータフレンドリーな状況をつくろうと地道な努力を続けています。

淮田:われわれもミニマムスケールでデータドリブンマーケティングに取り組む際、QRコードとスマホを活用した店頭におけるインスタントプロモーションを行うことがあります。また、複数のECチャネルにおいてオンライン、オフラインデータの分析やテストシナリオの作成を行ったり、もう少し大きな規模になると、複数のツールやソリューション、データを介在させたマーケティングプラットフォームの基盤を構築し、個々の領域ごとにPoCを設計したりするなど、スモールな試行錯誤を繰り返して改善を重ねていきます。これもデータフレンドリーな組織を育てる一例といえるかも知れません。データの取得から可視化、さらに具体的な施策につなげる経験を重ねることで、現地の状況に合ったマーケティングを模索するプロセスはとても重要です。

石戸:つまるところ皆さん、データを使って意思決定のスピードを速め、社内外のコラボレーションを加速させ、顧客理解を深めることによって、売上を上げ、利益を出したいわけです。しかしそうは言っても、事業会社は事業のプロであって、デジタルマーケティングのプロではありません。そこはやはり博報堂さんのようなパートナーの力が必要になるでしょうね。

淮田:テクノロジーの進化とともに、採用すべきソリューションやアライアンスパートナーも刻々と変わっていきます。Datoramaさんのような欧米の最新テクノロジーをキャッチアップしているサービスはグローバルに打って出ようとする企業や、われわれのような広告会社にとってかけがえのない存在です。

石戸:私自身、日本企業が海外でデータを中核にしたマーケティングで成功するチャンスは大いにあると思っています。データに基づいて意思決定することに言語の壁はありません。これから10年も経てば、おそらくデジタルマーケティング、データマーケティングという言葉は当たり前になり、あえて話題にされることもなくなるでしょう。企業の競争力強化に結びつかない煩雑な作業をテクノロジーの力で簡素化するといった面で、われわれが果たすべき役割は大きいと感じています。

淮田:とくにAIや機械学習など、テクノロジーを駆使しデータの最適化や効率化を行うのはわれわれの手に余る部分が多いのは確かです。お互い異なるポジションからクライアントのデジタル化やIoT化に伴うデータ活用、さらにはマーケティングの革新に貢献できたらいいですね。これからさらに良い協力関係を築ければと思います。

石戸:同感です。

淮田:本日はありがとうございました。

石戸:こちらこそありがとうございました。

プロフィール

石戸 亮(いしど・りょう)
Datorama Japan株式会社
セールスディレクター/ビジネスデベロップメント

2006年サイバーエージェントに入社。2007年にSEOに特化した同子会社のCAテクノロジー立ち上げに参画し、取締役として組織づくりや営業を管轄。2011年にはスマートフォンマーケティングに特化した子会社CyberZの取締役、2013年にはGoogle Japanで、Media & Entertainment業界の広告主を対象とした国内外におけるマーケティング活動を支援。2016年からはイスラエル発のSaaS型マーケティング・インテリジェンス企業Datorama Japan(デートラマジャパン)で現職を務める。

淮田 哲哉(わいだ・てつや)
株式会社博報堂 データドリブンマーケティング局 局長代理
グローバルデータマーケティンググループ グループマネージャー

博報堂のフィロソフィーである生活者発想を軸に、デジタルやデータを活用したマーケティング領域の戦略プランニング、マネジメント、事業開発、イノベーション、グローバル展開を担当。自動車、IT、精密機器、エレクトロニクス、EC、化粧品業界を中心に、デジタルシフト、データ分析、DMP活用、データ基盤構築、組織開発など、マーケティングの高度化を支援。アジア、中国、インドの海外業務やテクノロジー動向にも精通。

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