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生体情報が「視聴率」のようになっていく -データドリブンな広告の「未来のカタチ」vol.6
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生体情報が「視聴率」のようになっていく -データドリブンな広告の「未来のカタチ」vol.6

先進的なアイデアを形にする自主開発型クリエイティブ・ラボ、博報堂「スダラボ」の代表 須田和博が、データドリブンで変わる広告の「未来のカタチ」を解き明かします。

VRやMRの「本当の使い方」は、まだ見つかっていない

自分がものごころついたときは、すでにお茶の間に当たり前にテレビがありました。家の中に、外からリアルタイムで「映像」を映すという、ものすごく未来的な状況を、子どもの頃の自分は、ごく「当たり前」のものとして受けとめていたと思います。いまのVRやMRの状況は、その時代のテレビよりはるかに前の段階、たぶんまだ最初にテレビというものがこの世に出現したときに近い感じなんだと思います。

大正時代、最初の放送実験でカタカナの「イ」の字が映し出されているだけのブラウン管を見たときに、いったい、それを何にどう使えば良いのか?正直わからなかっただろうし、まさかこれが後に圧倒的なパワーを持つ「広告媒体」になるとは、誰も思っていなかったはずです。VRやMRって、今はまだそのレベル。「力道山」は、まだ現れていない。だけど絶対に、すぐに「え?体験コンテンツやってないの?ダメじゃん!」「まだ、ストーリーで伝えるとか言ってるの?頭かたいよ!」といわれる時代がやって来るはず。

いま、家具メーカーのARアプリで、部屋に家具を配置するシミュレーションができたりしますよね。ARというのはタブレットやスマートフォンで見るもの。タブレットやスマホは「ツール」なので、ARでは「有用性」が重要になると思います。つまり、自分の役に立つかどうかが問われる。

それがVRやMRで「視界全部」になったときは、また次元が変わる。その結果、意味が変わってしまう。そのとき大事なのは、もはや「有用性」ではなくなるかもしれない。道具ではなく、視界になるから。有用性に代わる「ユーザーにとっての価値は何なの?」と言ったら、それはやっぱり「何かすごい体験」としか言いようがないんです。そのぐらい、まだわからない。本当の使い方は、まだ見つかっていないんだと思います。

体験から得られる「生体情報」がデータになっていく

VRやMRはウェアラブル・デバイスで体験されるので、ユーザーの「生体情報」そのものが、視聴率的な「データ」になるはずで、そのコンテンツを体験したときに心拍数がどれぐらい上がったから、これには好感を持っていますとか、不快感を持っていますとか、怒っていますとかが、当然、計測できるようになるはず。アクセス履歴が「生体の体験反応の履歴」みたいなものに変わっていくだろうと思います。おっかない話のようですけど、時計も服も含めてウェアラブルというのは必然的にそっちに向かっている。ただ、そのデータ活用が、いらんモノを売りつけるようなことに使われたら、完全にアドブロックされるだけで、今後それは、健康サポートのような、ユーザーに歓迎されるものと一体になってくるのではないでしょうか。

こう書いていると何か想像を絶する未来の話のようですが、技術的にはもう、ほぼ完成くらいのところまで来ています。あとは、広告会社が一生懸命「そっち側の当たり前」に慣れて、そこでの「企画のお作法」を身につけていかないといけない。気がつかないうちに、ある日「当たり前」は、ガラッと変わるから、そのときあわてないようにしておかなきゃいけないと、スダラボをやっていていつも思います。

漫画:須田和博
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  • 株式会社博報堂 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター/スダラボ代表
    1990年多摩美術大学卒・博報堂入社。アートディレクター、CMプラナーを経て、2005年よりインタラクティブ領域へ。2009年「ミクシィ年賀状」で、東京インタラクティブ・アドアワード・グランプリ受賞。2014年スダラボ発足。第1弾「ライスコード」で、アドフェスト・グランプリ、カンヌ・ゴールドなど、国内外で60以上の広告賞を受賞。2016~17年 ACC賞インタラクティブ部門・審査委員長。
    著書:「使ってもらえる広告」アスキー新書