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AIで自動生成した映画のキャッチコピーは採用されたのか?
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AIで自動生成した映画のキャッチコピーは採用されたのか?

博報堂DYグループのAI技術は日々進化をしています。クライアント企業へ提供できるサービスにするため、日夜研究開発を行う担当者に、そのAI技術の内容と開発秘話についてインタビューしていきます。

第2回は、AI技術でキャッチコピーを作るー。現時点ではまだまだ難しい試みですが、映画会社から依頼されてコピーを生成した実績もできています。AI技術をつかってコピーライティングするとはどういうことなのか、将来的な展望はどのようなものなのか。2016年にスタートしたプロジェクトを担当した博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター(現在の所属は博報堂アクティベーション企画局デジタルアクティベーション部)の栗田昌平に話を聞きました。

博報堂DYグループのAI技術<AIコピーライター>

-キャッチコピーをAI技術で作成することになった経緯を教えてください。

2016年の4月頃に、私と後輩社員の新倉の二人で開発を始めました。私は、博報堂DYグループとしてAI技術を使ったキャッチコピー生成に取り組むべきだと考えていたところでした。
新倉は、キャッチコピーのコンペティションである広告賞に、コンピューターが自動作成したキャッチコピーを応募し、賞がとれるのか、ということを考えていました。その際に作っていたプログラムは原始的な確率論を利用したものでしたが、「同じようなことを考えているし、二人で一緒にやろう」ということで開発を始めました。

-会社としてAI技術を使うべき、と考えていた理由はなんでしょうか。

一つは、デジタル広告のキャッチコピーを作る機会が増えている中で、その全てにじっくり時間をかけて向き合おうとするとクリエイティブの作業も増え、単価も見合わないという現状があったことです。そういったキャッチコピーをAI技術を使って自動的に作ることが出来れば、会社にとって大きな利益になると考えました。
もう一つは、TVCMなど数多くつくる必要がないキャッチコピー制作にも、将来的にこの技術は役立つと感じていたことです。ルールベースとディープラーニングによって多くの候補を生成し、その中から人が最適なものをセレクトして、よりよい形にしていくということになれば、効率は大きく高まります。これは、若手社員が多くのコピーを作成し、その中から優れたものをクリエイティブディレクターが選択する、という現状の仕事のやり方とあまり変わりません。この技術を利用できれば、優れたクリエイティブディレクターだけでなく、若手社員も沢山のコピーから優れたものを選ぶようなことが可能になるかもしれません。

-二人で始まった取り組みはどのように展開していったのでしょうか。

まず部活動のような形でスタートしました。仕事が終わってから部活に行くような感覚です。自分達で望んでやっていることだったので、全く疲れを感じず、とにかく楽しかったですね。
私たちがこういう活動をしているという噂はすぐに社内で広まり、新しい広告ビジネスを作る部門であるビジネスインキュベーション局のクリエイティブディレクターから「ブランドコピーを作れないか」と持ちかけられたり、グループ会社である博報堂DYデジタルから「ネット広告のコピーを作れないか」といった相談を受けたりしました。

-部活動のようなスタイルから、会社の正式なプロジェクトになったのはどのタイミングだったのでしょうか。

2017年の1月に、映画会社から「映画のキャッチコピーをAI技術で作れないか」とご相談いただきました。当社社員が映画会社のプロデューサーの方と知り合いで、我々の活動についてお話したところご興味を持っていただいたのがきっかけでした。
映画会社からお声掛けいただいたことで、プロジェクトが正式に発足しました。それまでキャッチコピーを自動生成するために検討していた技術はAIに限らなかったのですが、プロジェクト発足と同時にAIに集中することにしました。「AI技術で作って欲しい」というリクエストがきっかけではありますが、「正式な仕事になったし、AIに集中しよう」と思えたことで、関わるメンバーのモチベーションが大きく高まったように思います。

-実際に映画のキャッチコピーを作るに当たって、どのようなことをされたのですか。

AI技術を使って文章を自動生成するチュートリアルをいろいろ調べました。その中に、米国のオバマ前大統領のスピーチのデータを取り込み、オバマが言いそうなことを自動で生成する、という研究があったんです。これは参考になるなと感じました。
このチュートリアルは「ディープラーニング」と呼ばれるAIの技術を使っており、我々もそれを参考に、独自のプログラムを作ることにしました。
特に難しかったのは、どういったデータを取り込むか、学習させるかということです。映画のキャッチコピーをAIで作った前例がないので、何を学習させるのが最適かは自分達で仮説を立ててやってみるしかありません。試行錯誤を重ねた結果、優れたキャッチコピーと、映画の台本の言葉などを取り込んで、キャッチコピーらしい言葉になるようチェックする仕組みを作ることにしました。

-実際にAIを使って作ったキャッチコピーの出来はどうでしたか。

コピーとしてかなり優れたものが出来ましたし、実際に映画会社の方からご評価いただけたものもありました。また、同じ言葉を印象的に連呼したり、言葉の切り方が変だけれどもそれが絶妙に印象に残ったりと、人間が作るコピーにはない味わいがあるものも多くありました。
ただ、コピーの方向性が途中で変更になってしまい、我々の作ったAIではデータの取り込みなどに時間がかかり、その変化に素早く対応できず、残念ながら宣伝広告ポスターとしてはご採用いただけませんでしたが、公式Webサイトの専用ページに取り組み紹介(苦労話)と、アウトプット例を掲載いただきました。
残念な結果になってしまった部分もありましたが、映画のキャッチコピーを作ることに集中したプロジェクトは、今後他の分野でコピーを作る際にも応用できると感じています。

-今後他の分野のコピーを作るに当たり、どのようなことを考えていますか。

これから必要になるのは、コピーを生成するAI技術に汎用性を持たせることです。例えばある分野の商品のCMのコピーを、~~の層をメインのターゲットに据えて作る、といった場合に、必要な設定を済ませればすぐにAI技術が沢山のキャッチコピーを自動で生成する、といった具合にしたいと考えています。必要なデータを都度都度取り込むのではなく、予め取り込んであるデータから必要なものを適切に選ぶような形にできれば、準備に時間もかかりません。クライアントから要望の変更があったとしても、素早く対応できるはずです。

-どういった技術を用いれば、そのようなことが可能になるのでしょうか。

あまり詳しくはお話できないのですが、取り込むデータに細かくタグ付けをします。例えば、何らかの言葉を取り込んだ際に、「これは20代女性に響く」などといったタグを付けます。様々な言葉に対してどのようにタグを付けるかは、キャッチコピーがどのような要素から成り立っているか、ということを突き詰めて考えることに繋がります。当社の力量が出る部分だと思います。
キャッチコピーを作る際には、対象に応じてこのタグを適切に選びます。タグの選択がうまくいくと、優れたキャッチコピーが生成出来る、といった具合です。

-AIを使ってキャッチコピーを作る、となると社内に反発する人もでてくるのではないかと思います。それに対してどのように説明されていますか。

いつも話しているのでは、「コピーライターの仕事を奪うものではありません。人の力は必ず必要です」ということです。先ほど若手社員とクリエイティブディレクターの関係をお話しましたが、どんなにAI技術が進化しても、クリエイティブディレクターに当たる仕事や最後の判断は人がやる必要があると思っています。人間とAIのハイブリッドでやるんだ、ということをお伝えしています。

-AIを実際に開発されて、将来の展望について当初とは考え方が変わった部分もあるかと思います。今後、どのような仕事への応用を考えていますか。

我々が採用したAIの技術は、言葉に限らず、画像認識などにも応用できる汎用的な技術です。そのため、うまく活用すればインターネットのバナー画像やロゴ画像も自動で生成できる可能性があります。ネット広告のコピーと合わせて販売できれば、大きなビジネスになると思います。

<終>

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  • 博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター (現在の所属は博報堂アクティベーション企画局デジタルアクティベーション部)
    博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターでデータを活用したサービス開発や、データドリブン・クリエイティブ施策の企画・開発を3年半経験したのち、博報堂のアクティベーション企画局へ。好きな食べ物は谷中生姜、好きなアイドルはジャニーズ。