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-マーケティング施策への投資対効果を読み解くサービス「m-Quad」

テレビCMやデジタル広告、店頭での販促活動、価格設定などの様々なマーテケティング施策が、商品の売り上げにどのように影響しているかを分析する手法「マーケティング・ミックス・モデリング」が再注目されています。この手法を適用したツールも多々存在する中で、博報堂DYグループでもオリジナル分析サービス「m-Quad(エム-クワッド)」を提供し、多くのマーケッターの方々から支持を頂いています。m-Quadの特徴や、実際のビジネスの現場でどのように使われているのか。m-Quadの開発を担当し、クライアント向けにサービス展開する博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター開発1グループの佐藤健一主任研究員と、博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンプラニングセンターデータアナリティクス部の山中大蔵アナリストに話を聞きました。

写真右から)博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター佐藤健一、博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンプラニングセンター山中大蔵

-まず、マーケティング・ミックス・モデリングとはどういうものなのか説明していただけますか?

佐藤:マーケティング・ミックス・モデリング(以下、MMM)とは、マーケティングROIを把握するための分析アプローチの1つです。遡ること約20年前、POSデータの販促活用という企業要請を背景に、米国の消費財業界発祥で方法論が確立されたようです。国内でも刺激反応分析という名称で長年研究されており、その意味ではMMMのアプローチ自体は特別目新しいものではありません。現在、MMMと呼べるサービスは当社以外にも広告会社・調査会社・戦略コンサルなどが手掛けており、確認できる範囲でも10社以上がサービス提供しているようです。
 MMMが目指すところは、「どのマーケティング施策が売り上げにどれくらい影響するかを定量的に示す」「個別施策ごとのマーケティングROI(投資対効果)を見極め、その結果をもとに全体のマーケティングROIを最大化させる」ということであり、これはマーケティングに携わる方であれば多かれ少なかれ意識されることではないでしょうか。MMMは、中長期的なマーケティング投資戦略をも左右しかねないシビアな分析のため、分析の緻密さはもちろん、理論解と現実解の折り合いなども加味しなければいけません。

-マーケティングROIを算出するには必ずMMMを使うのですか。

山中:いえ、そんなことはありません。例えば、似た条件の店舗を二つ用意して異なる施策を実行してその効果を確かめるABテストなどでも算出が可能です。ただし、ABテストの場合は、条件に合った店舗を探すことも簡単ではありませんし、テストを実施するために追加のコストや時間がかかることに加え、事前に精緻なテスト設計が必要です。一方、MMMの場合は、推定された結果にはなるものの、過去データがあれば分析を始められるため事後的な分析が可能です。

佐藤:MMMに詳しいクライアント企業のご担当者から、こんな話を伺ったことがあります。曰く、「数年前にMMMを実施した際は、結局、データ分析の先のアクションにうまく繋げられなかった」と。よく伺うと、データ分析が終わったタイミングで膨大な量の紙の報告資料が納品され、プレゼンを何時間かやってそれで終わりだったのですね。
 これでは、例え分析が正確に緻密に出来たとしても、マーケティングROIを最適化したいというクライアント・ニーズに応えているとは言えません。データ分析はあくまで手段であり、本来は分析結果をもとにした適切な予算配分プラン・適切な広告・販促戦略までを一緒に提案し、実行に移すフェーズまで支援すべきなのです。
 独りよがりのデータ分析だけでは、MMMとは言えません。データ分析・マーケティング戦略立案・実行・検証に至るまでのマーケティング・マネジメントをワンストップでご提供するには、社内外を横断して連携する必要がありますし、もっとお客様と多く対話させていただく必要があると考えていました。

山中:3年前のm-Quadのサービス開始時点からその点を問題意識として強く持っていました。そのため、クライアント企業とは何回も打ち合わせを重ね、目的や課題意識を共有することを重視し続けています。

-では改めてm-Quadについて教えてください。m-Quadという名称はどこから来ているのですか。

佐藤:MMMにマネジメントの”M”を加えた「4つのM」という意味を込め、「m-Quad」と命名しました。MMM=データ分析という狭い範囲に留まるのではなく、事業のマネジメントサイクルへの組み込みまで意識した広い視点のサービスにしたいという考えからです。

-m-QuadはMMMサービスの中でどのような位置付けですか。また他のサービスと比較してどのような点が優れていますか。

佐藤:正式なサービス提供開始から3年超が経過しているのですが、単発プロジェクトで終了せず、毎年継続して頂くクライアント企業が非常に増えていますね。提供規模の拡大につれて、「マーケティングROI最適化+アルファ」を求められることも多い印象です。

山中:私が所属する部署が中心となりクライアント企業と向き合いながらサービスを提供していますが、クライアント企業の課題に合わせて、ストラテジックプラナーやメディアプラナーなどを都度アサインし柔軟にチーム編成をおこないます。この“向き合う”という点に非常に力を入れていて、そのクライアント企業に必要な情報・データはどんなものか、また、得られたアウトプットからそのクライアント企業が今すべきことはどのようなことか、ということを、対話しながら進めていきます。今申し上げたようなことを重要視していることもあり、ほとんどの企業様にサービスを継続していただいていますし、「昨年度はブランドAで実施したから、今年度はブランドB・Cでも実施したい」といった形で、規模を拡大しながらご継続いただくケースが多いです。

佐藤:コンサルティングの体制が充実していることに加えて、データ分析の技術面でも特徴があります。サービスの根幹がデータ分析である以上、分析精度は当然ながら高いクオリティが求められますが、クライアント企業からは「m-Quadは分析技術面でも優れている」との声を頂いています。

-m-Quadが技術的に優れている点とはどのような部分ですか

佐藤:正式にサービス提供する前の基礎研究フェーズも加えると5年以上技術研究をしているため、様々なノウハウ・テクニック・知見が当社には蓄積されているのですが、ここでは二点ご紹介したいと思います。
 一つ目は、データ分析の裏側で作成する数理モデル構築の技術です。数理モデルをひらたくいうと、数本から数十本くらいの方程式の塊ですね。MMMで算出する結果は最終的に、「全体の売り上げ100%とすると、テレビCMが30%、デジタル広告が20%、店頭販促が20%貢献している。残りの30%は、外部環境(例えば気温)というアンコントローラブルな部分である」といった具合の非常にシンプルなものですが、この結果を導き出すための方程式をどう組み立てるか各社の解析技術の腕の見せ所とも言えます。
例えば、方程式で加味するべきマーケティング施策や外的要因は、業種・業態・ブランドによって千差万別です。また、「テレビCMとデジタル広告の相互影響」など、各施策間の影響を数理モデルできちんと考慮することも重要です。それらの組み立て方にはやはりノウハウが必要で、そこには当社の広告ビジネスにおける豊富な経験が活きています。

 もう一つは、テレビCMなどのマーケティング施策を長く継続的に続けた場合に、その効率が上昇しているのか下降しているのかを把握できる点です。例えば、「昨年の全国キャンペーン期間中はTV広告の効率(一定の広告投資で売上をリフトする感応度合い)が低迷していたが、今年のキャンペーン期間中は効率が向上している」。このようなことがデータとして把握できるというわけですね。これにより、マーケティングROIを緻密に把握した上で、広告施策の適切な期間やタイミングまで踏み込んで理解することが可能になります。
 これらを実現する技法として、当社では「状態空間モデル」と「ベイズ推定(MCMCなどの乱数シミュレーション)」をフル活用しています。広告・マーケティングの現場においては全般的に「観測データが少ない・疎である」こともあり、いわゆる重回帰分析だけでは太刀打ちできないケースが多くなります。またパラメータ自体が持つ時系列変動(動的パラメータと呼ぶこともあります)を精緻に推定することも、重回帰分析だけでは実現困難です。施策から売上に至るまでの市場構造の把握とその変化を捉えるにはどうすれば良いか?という課題意識の元で、辿り着いた技法です。
必ずしもデータが綺麗に揃っていない条件下で、マーケッターの経験・勘を汲み取りつつマーケティング・マネジメントの実用に組み込めるクオリティの数理モデルを構築する。そのために積み上げた各種要素技術と、それを扱う経験・ノウハウについては、当社は一日の長があると自負しています。

ここまででお気付きの通り、m-Quadは、クライアント企業によって全て方程式が異なります。スーツに例えると既製服というよりテーラーメイドに近いイメージですね。ただしテーラーメイドと言っても何ヶ月も要するわけにもいきませんので、近年では、モデル構築作業を高速化するための社内システム基盤整備にも力を注いでいます。

-実際にm-Quadを使っている企業でどのような効果が上がっているか教えてください。

山中:あるメーカー企業では、テレビ広告と販促キャンペーンのどちらに投資すべきかという課題に対し、m-Quadをご利用いただいております。他にも、複数ブランドのマーケティングROIを算出し、それらブランドの投資のメリハリをつけることで、新たに立ち上げる新ブランドへの投資資金へ確保するためにm-Quadをご活用いただいている企業様もいらっしゃいます。

佐藤:MMMの分析結果は毎年続けると効果を発揮するものが多いです。続けると、良いことも悪いことも可視化されます。私は個人的に、人間で言う“健康診断”のようなものだと考えています。毎年1度はオススメしたいですね(笑)

山中:このようにマーケティング投資配分に関連する課題に対しご活用いただくことが多いのですが、単なる費用削減のための分析にはしないということも重要な視点です。MMM分析を通じて、投資効率化による費用削減への示唆が導き出される場合がありますが、削減分を利益に回すより、将来への投資の原資にしていただくよう、ご提案する場合もございます。効率化も必要な視点ですが、単なる費用削減では事業そのものが先細りしてしまう危険もあり、事業の自由度を奪ってしまう可能性があるからです。

-つまり、MMMをより上位のマーケティング戦略へ活用していくということでしょうか。

山中:はい、そうお考えいただいた方がよいと思います。最近では、マーケティングアカウンタビリティという言葉も盛んに聞くようになってきています。各マーケティング施策に投資した理由を社内関連セクションに留まらず、社外ステークホルダーに説明することが求められることも多くなってきており、その背景には、マーケティングコストを、”費用”ではなく”投資”と考える文化が定着してきていることがあるのではないでしょうか。企業ブランディングのCMをするのか、各製品ブランドのCMをするのか、販促にお金を使うのか、マーケティングROIが高いものはどれか、そういったことに対する根拠を明確にすることが重要になってきていると思います。
また、あるサービス企業では、通常のマーケティング施策に加えて、新サービスローンチによる売上への影響をm-Quadを使って可視化しました。新サービスをローンチすると一時的に効果が出るのですが、他社も追随するため徐々にその効果が薄れてきてしまいます。そして、可視化した結果、仮にさらなる新サービスローンチとメディア効率化を組み合わせても、目標に届かない可能性が高まってきていることがわかり、サービスコンセプトやターゲットの見直しなど、分析結果がブランドそのものをどう考えるかのきっかけになりました。このように、単にマス媒体間の投資配分を変化させるだけではなく、より上位のマーケティング戦略に分析結果を活かしていくことが重要であると考えています。

-事例によるとかなり大きな規模の企業が多いようですが、m-Quadの利用に適しているのはどのような企業ですか。

山中:現状では、一つのブランドに対しマーケティング予算が10億円以上あることを目安にしていますが、実際は売上の推移などデータの動きを拝見させていただき判断していますので金額の多寡はあまり意識していません。また、当社以外の広告会社で広告を出稿している場合でも、その効果を検証するためにm-Quadをご利用いただくことはできますし、実際にそういう企業様もいらっしゃいます。

-m-Quadについて今後の展望があれば教えてください。

山中:現状のm-QuadのようなMMMサービスは、当社を含め一定額の分析フィーが必要ですし、ご担当者さまにもある程度の知識が必要です。マーケティングROIの可視化というどの企業でも直面する課題に対して、MMMを含めた分析自体の敷居が下がることが、日本のマーケティング全体の発展につながると思います。そのためには、誰でも気軽に分析ができるツールの開発や、マーケティングROIに関する研修なども実施していきたいと考えています。

佐藤:現状のm-Quadサービスは多くのクライアント企業から支持を頂いており、大変ありがたく感じています。バックエンドで研究・システム開発を担当する立場としては、高品質の分析をお届けするため、分析基盤の整備を進めると共に、新しいデータや解析技術を積極的に取り込んでいき、m-Quadサービスを常に進化させていけたらと考えています。

山中:最後になりますが、m-Quadについてご興味を感じましたら、記事の最後の「問い合わせ」欄よりご連絡いただければと思います。

<終>

プロフィール

佐藤 健一(さとう・けんいち)
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター
開発1グループ

2012年博報堂中途入社。以来、マーケティング・ダッシュボードVision-Graphics、マーケティング・ミックス・モデリングm-Quad、機械学習プラットフォームDataRobotなどを利活用したソリューション開発を主に担当。「生活者DMP」構築に向けたデータホルダーとのアライアンス推進業務にも従事。

山中 大蔵(やまなか・たいぞう)
博報堂DYメディアパートナーズ
データドリブンプラニングセンター
データアナリティクス部 アナリスト

博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター
開発4グループ

2007年博報堂入社。初任配属は経理財務局。初任配属以降、7年半に渡り本社マネジメントスタッフとして、業績管理・予算策定・中期計画策定・全社会議体運営に携わった後、博報堂DYメディアパートナーズにて、マーケティングミックスモデリング等を活用したマーケティングROIの可視化業務に取り組む。

m-Quad

構造モデリングなどを用いて現場マーケッターの意思決定を支援する 新しい形のMMM(Marketing Mix Modeling)サービス

m-Quad

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