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「分析の視点」で、スポーツはより強く、面白くなる!(前編)
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「分析の視点」で、スポーツはより強く、面白くなる!(前編)

博報堂DYグループのデータスタジアム株式会社では、2017年5月より「スポーツアナリスト育成講座」を開講しています。同講座の講師でもあり、Jリーグクラブで分析の現場にいた経歴も持つデータスタジアムの久永啓さん、藤宏明さんに、スポーツアナリストの役割や課題、今後の展望について、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センターの木下陽介が聞きました。

写真左から)データスタジアム 久永啓、藤宏明、博報堂DYホールディングス 木下陽介

 

自分のチームの試合は見られない!?Jリーグでの「分析」という仕事

木下

僕は、本業ではメディア動向、コンテンツ動向における生活者行動研究といったことに携わっているのですが、それとはまったく別に、個人的に大のサッカーファンでもありまして(笑)。
データスタジアムさんが運営するサイト「FOOTBALL LAB」内にコラムを連載したり、同サイト内で使われる「チャンスビルディングポイント(CBP)」という独自の評価指標の開発にも取り組んでおりました。今日はお2人に話をうかがえるのを楽しみにしていました。
まずはそれぞれ自己紹介をお願いできますか。

久永

僕は早稲田大学、筑波大学大学院を経て、2006年にサンフレッチェ広島に入団。アカデミーのコーチとしてジュニアユースやサッカースクールで指導する傍ら、分析や映像編集の作業に当たっていました。知り合いだった森保一さんの監督就任をきっかけに分析担当コーチとなり、2年勤務。その後2014年にデータスタジアムに入社しました。

僕は筑波大学サッカー部でマネージャーをしており、2005年に就職したヴィッセル神戸でもチームマネージャーとして遠征手配などの雑務に当たっていましたが、2009年カイオ・ジュニオールというブラジル人監督が就任した際に分析を担当することに。しばらくマネージャーと兼務でしたがその後8年間勤務する中で分析専任となっていきました。2014~2015年は名古屋グランパスエイトで西野監督のもと分析を担当し、データスタジアムに来たのが2016年です。

木下

Jリーグ時代はどういう仕事の流れだったんですか?

久永

J1は土曜日に試合があるのですが、その日は自分のチームの試合ではなく、次の対戦相手の試合を見に行っていました。日曜日にその試合映像を分析、スタッフと共有する準備をします。月曜日のオフをはさんで、火曜日のスタッフミーティングで監督やコーチと相手の特徴や試合で気を付けること、選手に伝えるべきことなどのすり合わせをします。水曜日に選手向けの映像の準備をし、木曜日のミーティングで選手たちに分析内容を伝えるというルーティンでした。
人によりますが、サンフレッチェ広島の森保監督の場合、細かい修正はあくまでもピッチ上で行うスタイルでしたので、僕はあくまでも参考程度に、映像を使いながら相手の特徴を情報として選手にわたすことを徹底しました。

私もおおよその仕事の流れはそんな感じでしたね。やっぱりシーズン中は自分のチームの試合はまったく見ることができなかった。チームの残留がかかっていたときなどは、次の対戦相手の試合を観戦しながら、自チームの試合経過を時折携帯でチェックしてはハラハラする、といった感じでした(笑)。

木下

その後お二人ともなぜデータスタジアムに入られたのですか?

久永

知り合いにデータスタジアムの存在を教えてもらってすぐに興味を持ちました。データを通して効率的にチームやプレーを分析したり、具体的に事実を掘り下げられることにとても面白さを感じたんですね。今後さらに分析を深めていくには、アナログな方法ではなく、データやテクノロジーが絶対必要だと感じていたタイミングでもありましたので。

僕は名古屋での2年間が終わった頃、プロに入って10年いうこともあり、新しいキャリアをスタートさせるべきだと考えていました。もともとデータスタジアムの存在は知っていたので、自分自身をアップデートさせるためにも、今後データを通してどんな風に「分析」の仕事が発展していくのか学んでみたいと思ったんです。

これまで感覚的に把握していたことが、データによって明確にわかるように

木下

クラブでは、基本的にどんな形でデータを活用しているのでしょうか?

久永

現場で最も使われるのは映像検索です。選手名と、「シュート」などの言葉で検索をかけると、その選手のシュートシーンが一気に見られるといったものです。さらに付随するデータを使うことで、「うちはここが強みだからこういう指標を大事にしよう」「ここは改善点だから強化項目にしよう」など、客観的にチームの状態、力を確認するための指標として使っていただいています。

木下

フットボールアナライザー」はすごいですよね。僕が言うのもなんですが(笑)。対戦相手のシュートがあったら、その前後2分間くらいの映像がばっと出てくる。そうすると、サイドからクロス入れたのかとか、セットプレーからか、あるいはどういう経路で行ったのか、特定の選手を経由しているか……などなど、すべてがわかる。

久永

ありがとうございます(笑)。トラッキングデータも使えば、シュートやパスの数字と、走行距離、スピード、位置情報がわかります。たとえばシュートを打ったとき、ディフェンスの選手は何メートル離れたところにいたか、などもわかる。これまではなんとなくでしか把握できなかったことが明確にわかるようになっています。

ただ、重要なのは、やはりデータがあってもそれをどう使っていくか。データの重要性に対する認知は広がってきましたが、それを分析できる人材はまだまだ少ないのが実情です。それに、天候や試合展開などさまざまな不確定要素も絡んでくるので、データをうのみにするのではなく、多少の距離感をもって活用していくということも求められると思います。

木下

それは、僕の本職のマーケティングでも同じです(笑)。出てきたデータの背景に隠れている生活者の深層心理や仮説が肌感と合うかどうかを照らし合わせて納得感のある分析結果を提供しないと納得してもらえない点で共通していると思います。データ分析における今後の課題はほかにありますか?

データは膨大にあるので、これからはそれをきちんと活用するために、アナリティクス専業の部署を設けるなど、組織も向き合わないといけないのかなと思います。

久永

サンフレッチェ広島時代に、クロアチア出身のミキッチ選手から海外のデータ分析会社が行った分析内容を見せてもらったことがあるんです。データを受けて特定の選手をトレーニングした結果、パスの成功率が何%上がったといったものでした。ほんの数%で、当時は正直ぴんと来なかったのですが、いまはそれがどれだけ重要かわかります。ヨーロッパでは、指導者も選手もその重要性をわかっていて、トレーニングに活用しているわけです。

木下

なるほど。一方で日本はようやくデータやテクノロジーの活用が始まった段階で、指導者側にも、そこからトレーニングメニューや戦術戦略といったところまで落とし込んでいるような人材はまだ少ないかもしれない。
そういった課題意識があっての、「スポーツアナリスト育成講座」なんですね!

「分析の視点」で、スポーツはより強く、面白くなる!(後編)に続く

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  • データスタジアム
    1977年生まれ。早稲田大学人間科学部卒業、筑波大学大学院体育研究科修了。
    2006年、プロコーチとしてサンフレッチェ広島に入団。アカデミーの指導者として活動しながら、指導者養成事業での分析や映像編集にも従事。2012年、トップチーム分析担当コーチに就任し、Jリーグ2連覇に貢献。2014年、データスタジアム株式会社に入社し、育成年代からプロレベルまでの分析サポートを担当。
  • データスタジアム
    1982年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業。
    2006年ヴィッセル神戸にてチームマネージャーとして入団。
    2009年からは分析担当として従事。
    その後、2014年から名古屋グランパスでコーチ(分析担当)を経験。
    2016年2月より現職。
    現在は、育成年代からプロレベルまでの分析サポートを担当。
  • 博報堂 研究開発局 木下グループ グループマネージャー
    博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ グループマネージャー
    2002年博報堂入社。以来、マーケティング職・コンサルタント職として、自動車、金融、医薬、スポーツ、ゲームなど業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、保険、通信でのダイレクトビジネス戦略の立案や新規事業開発に携わる。2010年より現職で、現在データ・デジタルマーケティングに関わるサービスソリューション開発に携わり、Vision-Graphicsシリーズ, m-Quad, Tealiumを活用したサービス開発、得意先導入PDCA業務を担当。またAI領域、XR領域の技術を活用したサービスプロダクト開発、ユースケースプロトタイププロジェクトを複数推進、テクノロジーベンチャープレイヤーとのアライアンスも行っている。また、コンテンツ起点のビジネス設計支援チーム「コンテンツビジネスラボ」のリーダーとして、特にスポーツ、音楽を中心としたコンテンツビジネスの専門家として活動中。